これまで400以上の作品を発表し、世界中で翻訳されている絵本作家の五味太郎さんと、絵本の原作も手掛ける女優の室井滋さんの対談が実現した。コロナ禍でも前向きに生きるためのヒントを得るべく、75歳となってもなお精力的に創作活動を続ける五味さんに、室井さんが話を聞く。
室井:聞けば聞くほど自由でパワフル。閉塞感があるいま、どういうふうにしたらそういう気持ちになれるのか、ぜひアドバイスをいただきたいです。
五味:今こんな状況だからって、何かを変えようという発想自体がよくないと思う。コロナに限らず、時代は変化していくものでしょ。だから俺なんかは、変化していく時代や社会をニコニコと眺めている感じ。自分自身は変わってないの。
誤解を恐れずに言えば、多くの人たちが持っている「コロナ前の生活に戻りたい」という感覚にも、少し違和感がある。
室井:それはどうして? 私なんてしょっちゅう、ああ昔に戻りたい、なんて言っちゃってますけど。
五味:問題が起きて何かを失ったときに、元に戻すのではなくて、新しい何かを手にしたいと思う性格だから。いい例え話ではないかもしれないけど、昔、ラリーをやってて、山を走っていたら車が転がり落ちたことがあって……。
室井:えっ、崖から落ちた?
五味:そんなに驚くほど危険な状況じゃないよ。杉林に車がつっこんで、上下さかさまに回転しながら、転がり落ちていくわけ。どこかで止まるのはわかっているから、“ああ、これで新車に買い替えられる”なんて思った。
室井:きゃー、すごい余裕ですね!
五味:結局、廃車になって新しい車を買ったんだけど、そうやって何かアクシデントがあると、次にもっといいことがあると思うタイプなの。これをきっかけに、何かいい方向に変われるはずだっていう発想をする。コロナではそれぞれが置かれている状況が違って、どうしようもない苦況もあるかもしれないけど、元の生活よりいい方向に変われると考えるのもアリでしょ?
室井:なかなかそんなふうに考えられないですね。ただ、失う何かがあっても、その先には新しい何かがあるって発想は見習いたい。
車が転げ落ちて……というお話を聞いて思い出したんですけど、昔、すごくお気に入りで大事にしているカバンがあったんですよ。ボロボロになっても、捨てるきっかけがなくて困っていたら、ラッキーなことに、富山にいる友達の家で壊れちゃった。“よし、東京に戻ったら新しいのを買おう”ってワクワクしてたら、友達が親切に「これから帰るのに、バッグがないと困るでしょ」って。