誰もが夢見るものの、なかなか現実にならない“夢の馬券生活”。「JRA重賞年鑑」で毎年執筆し、競馬を題材とした作品も発表している作家・須藤靖貴氏は、ついに万馬券を的中。その喜びと、同時にわきあがった複雑な感慨についてお届けする。
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迫力配当の道遠し。3連単5頭ボックスは空振り続きで、ついに編集部からムチが飛んできた。「読者もシビレを切らす。的中馬券を載せろ! ダメなら別の話題に替える!」。テコ入れですね。
そんなおり、再読中のミステリーの一節に目が止まった。コリン・デクスターの『ウッドストック行最終バス』。名物キャラのモース警部が犯人を絞りこむ推理が笑えるのだ。条件を満たす対象を段階的に絞っていく。「35~50歳の男、妻帯者、酒飲み、ハンサム、赤い車所有」という具合。さらに絞りこみ、机上の推理のみで犯人が特定されるのだった(もちろんハズレ)。
競馬予想そのものではないか。頭を抱える警部に自分がダブる。こっちのほうが難事件。ミステリーの多くは単独犯だが、「3連単犯」は3名。順番も正しく当てなくてはならぬ。ただし容疑者は多くて18名。クリスティ女史原作のような想定外の犯人というのは、まあありえない。
ある日の中山。3歳未勝利、芝のマイル戦に目を付けた。16頭立てだ。内枠の先行馬が有利といわれるコース。1番人気は(15)の差し馬だが2着か3着までという可能性も大いにある。ホンボシは別にいる。
(4)(5)(6)(7)(15)の3連単5頭ボックスで勝負!
ただし1~3人気を押さえた(いつもは人気馬は2頭だけ)。大型連敗を止めたいのである。
これが来た! (15)と(5)がハナづらを揃えてゴール、3着は(6)。初めての3連単5頭ボックス的中に、私の尻が1センチほど浮きあがった。
もろ手をあげたあとで目を凝らした。(5)は4番人気。(5)(15)(6)と(15)(5)(6)とではまるで配当が違う。実に際どい勝負で、肉眼では同着に見える。写真判定の時間も長い。私の脳内は「(5)! ぜったい(5)! お願いだから(5)!」である。
ちょっと待て。同着なら2通りの配当が手に入る。3連単ボックスの例外的2点的中だ。いわば真犯人が2人。脳内から(5)が消えて「同着!」に切り替わった。なんという身勝手さか。ただし同着に1番人気が絡む場合、トータルの配当はそれほどでもないらしいけど。