コロナ感染拡大の原因になったと批判されたGo Toトラベルが昨年末に停止され、旅行業者の業績は急激に悪化している。JTB、エイチ・アイ・エスなど大手も軒並み赤字に転落し、いまだ第4波の出口が見えないなかで、業界全体の沈没も現実味を帯びてきた。しかし、主業の需要が蒸発したからといって会社がなくなるわけではない。コロナ禍で従来の業務が打撃を受ければ、新たな活路を探してイノベーションするのが経営者の役目である。マスクを大ヒットさせたシャープの例は有名だが、居酒屋がランチや弁当販売で生き残りを図っていることも同様だろう。
実は、旅行業界が思わぬ新規事業に乗り出していることは、あまり知られていない。『週刊ポスト』(5月17日発売号)では、コロナ禍が猛威を振るう大阪の現状をリポートし、そのなかで「ワクチン接種に参加した医師の報酬が直前に減額された」という問題を報じている。その経緯は本誌に譲るが、そこで目を引いたのが、堺市のワクチン事業を市から受託したのが「南海国際旅行」という旅行代理店だったことだ。
同社は堺市の7つの接種会場の運営を一括して3億6000万円で請け負い、接種者の案内や医師・看護師の確保などを担っている。堺市によれば、「南海国際旅行は本社が難波で堺市も南海沿線ですから、もともと観光面をはじめいろいろお世話になっています」(感染症対策課)という縁があり、事業委託は随意契約によるものだった。旅行業とワクチン接種に何か関係があるのだろうか。南海国際旅行の責任者に聞いた。
「私たちの業界は本当に厳しい状況にあります。大手さんでも2~3割の従業員が休業に入ったり出向に出たりしています。海外旅行などはコロナ前の95~98%減という状態が続いています。そこに自治体のワクチン接種の入札があるという情報があり、弊社も参加させていただきました。
もともと旅行会社にはイベント運営のノウハウがあります。弊社も大手芸能プロダクションのフェスの運営事業をやっていて、そのシステムを自社開発して持っていました。それをワクチン接種会場の運営に活用したということです。それから、旅行会社というのはサービス業ですから、お客様に対するホスピタリティが高い人材が多い。
弊社の場合は堺市で契約できましたが、他の自治体でも入札に参加しています。それら自治体では、他の旅行会社が落札したところもありますし、あとはイベント会社や人材派遣会社などがありますね。ただ、人材派遣会社は労務管理などのシステムを持っていないので、その点では旅行会社が一歩リードしていると自負しています」