バッハ会長は5月10日、IOCの公式サイトで「すべての人のために安全な東京五輪・パラリンピックを開催する」と改めて表明したが、アスリートたちは「再考」を求める声を上げ始めた。
日本代表として五輪出場内定確実なテニスの大坂なおみ選手は「もちろんオリンピックは開催してほしいと思っています」としながらも、「もしオリンピックが人々を危険にさらすのであれば、そして人々が開催を居心地悪く感じているのであれば、私たちは今すぐに議論すべきです」と発言し、続いてコロナ感染の経験を持つ錦織圭選手が「1人でも感染者が出るならばあまり気は進まない。死者がこれだけ出ている、ということを考えれば、オリンピックは死者を出してまでも行なわれることではないとは思う」と踏み込んだ。
ところが、内外のメディアで大坂選手の発言の報道ぶりは全く違った。
米国ロイター通信は〈テニス=大坂なおみ、五輪開催は「危険あるなら議論すべき」〉と報じたのに対し、読売新聞グループのスポーツ報知は〈大坂「開催してほしい」〉の見出しで、大坂が語った「議論してほしい」という部分は報じなかった。
日本の新聞・テレビは、大坂選手や自身のSNSに五輪反対派から「辞退して」などのコメントが寄せられていると訴えた池江璃花子選手らの発言は報じても、「五輪中止」を主張する社はほとんどない。
朝日、読売、毎日、日経はいずれも組織委と東京五輪のオフィシャルパートナー契約を結んでいるからだ(産経新聞はそのワンランク下の「オフィシャルサポーター」)。スポンサー料を払う代わりに「がんばれ!ニッポン!」など関連ロゴマーク、五輪の関連映像や写真、日本代表選手団の関連素材などの幅広い使用権が認められている。
大手広告代理店勤務の経験がある作家の本間龍氏が、その“旨味”を語る。
「五輪が開催されれば、新聞社には大会スポンサーの大手企業の広告が一斉に入るし、五輪特集の別刷りを発行すれば、そこにも五輪キャンペーン広告が多数入る。1社あたり数十億円単位の売り上げが見込めるはずです。新聞不況の中、パートナーの各社は中止で五輪特需を失いたくないのが本音でしょう」