私は死んでもいいから、どうかあの子だけは助けてください──顔を大きくゆがめ、苦しそうに息をする息子が病棟に運ばれる様子を見送りながら、Aさん(40代女性)はそう何度も祈っていた。
14才の少年が新型コロナに感染したのは、5月上旬のことだった。Aさんの住む福岡県では、5月に入り感染が急拡大。300人以上の新規感染者が出る日が続いた。
そんな中、突然息子が40℃近くまで発熱した。医療機関で検査を受けたところ、コロナの陽性反応があり、すぐさま入院することに。彼には喘息の基礎疾患があったため、レントゲンで肺の様子が確認された。幸いにも、肺に影はなく、熱が下がれば退院できると医師から告げられた。
「よかった、やっぱり子供は重症化しないんだ」──Aさんは安堵した。
しかし、翌日に息子の容体が急変。肺炎の症状が出て、呼吸時にヒューヒューとした喘鳴が出るようになり、酸素量が低下。顔はみるみる真っ青になった。その後、予断の許さない状況が数日間続いた。無事に退院できたものの、Aさんはいまだにあのときの息子の苦しそうな表情が頭から離れないという。朝倉医師会病院(福岡県)の感染症専門医である佐藤留美さんは、この春から患者の年齢層に変化があったと話す。
「4月に入ってから明らかに子供の患者が増えました。今回の第4波は、第3波(昨年11月~今年1月)と比べると3~4倍でしょうか。以前は大人から感染するケースがほとんどだと感じましたが、いまは子供同士でも感染しています」
新型コロナはこれまで「子供には感染しにくい」「感染しても重症化しない」が“常識”とされてきた。
「重症化する子供たちにはある共通点があります。ほとんどが『変異株』のコロナウイルスに感染しているのです。これまでは基礎疾患があっても、10代で肺炎を発症することは稀でした。しかし、変異株は子供でも重症化するスピードが速く、入院しても1週間以内に症状が悪化するケースが増えています」(佐藤さん・以下同)