「すごく細いわよね~」、「あら、ちょっとやせたんじゃない?」。こんな言葉をかけられたら、「そんなことないわよ」と謙遜しつつも、つい頬が緩んでしまうかもしれない。これまで日本において「やせているね」は、「きれいだね」「努力したんだね」「健康的だね」を意味する、ほめ言葉だと捉えられてきた。
おデブさんとは呼ばれたくない、老けて見られたくない──年齢を問わず、ダイエットは昔から女性の永遠のテーマであり、メディアには数年前から流行している糖質制限のほか、「○○に置き換え」や「○○しか食べない」など、次から次へと新しいダイエット法が登場している。そして人々は皆、それをせっせと実践する。
やせている人ばかりがひたすら礼賛される世の中で、日本人の総摂取カロリーは、第二次世界大戦直後のそれを大きく下回っている。もちろん、食事の内容は当時から大きく変わっているため、一概に栄養不足だと言い切ることは難しい。しかし、いまの日本人が「終戦直後よりも食べようとしなくなっている」ことは、まぎれもない事実だ。やせたい人ばかりが増えて、衰えを知らないダイエットブームに落とし穴はないのだろうか。
第一線で活躍したモデルは拒食と過食を繰り返した
そもそも、どうして私たちは皆、こんなにもやせたいのだろう。モデルでボディメイクトレーナーの佐々木ルミさんは、世の女性は“ファッションアイコンのようになりたい”という憧れが強いと語る。確かに、戦後のファッションアイコンを振り返ると、スリムな女性ばかり。
「1960~1970年代にかけては、イギリスのトップモデルのツイッギーの影響で、ミニスカートが世界的に流行し、日本人女性もミニスカートが似合う細い脚に憧れました。1980年代になると、松田聖子さんを筆頭にしたアイドルブームを挟んで、安室奈美恵さんやケイト・モスが時代の寵児となった1990年代が到来。“細い女性が魅力的”という流れを後押ししました。
“私も憧れの彼女たちのようになりたい=細い体になりたい”という気持ちが、女性のやせ願望に拍車をかけたのではないでしょうか」(佐々木さん。以下同)
たった2~3kgで10kg太ったような恐怖感
佐々木さんは、もともとスリムな体形だった。高校卒業後はモデルの道に進み、ロンドンやニューヨークなど第一線で活躍した。だが、20代後半になり、仕事や私生活のストレスで過食気味になったという。
「将来に対する漠然とした不安を食べることで埋めるようになり、体重が増えていきました。
食べる量を減らして体重を戻し、またストレスで過食、絶食……と繰り返し、オーディション前は1週間何も食べずにウオーキングに励むようになりました。無理なダイエットでオーディションを乗り越えると、また食欲が爆発して、ものを食べる手が止まらなくなる。そんな過食と拒食を繰り返していました」