この春の東大合格者数ランキングでは、公立のトップ校が大きく伸ばしたことが盛んに報じられた。その一方で、今年は全国的に公立高校入試の低倍率が目立ったという。この両極端な現象にはどんな背景があるのだろうか──。安田教育研究所の安田理氏がレポートする。
* * *
今年の東大合格者が首都圏の公立トップ校で大きく増えた要因として、コロナ禍で部活が制限され、その分勉強に充てられた時間が多かったということが言われている。
例年は私立中高一貫校の多くが高2の前半で部活を終了するのに対し、公立高校は例年高3の夏ないし秋まで継続するところが多いためだ。もちろん今年特有の要因としてはこれが大きいだろう。
“地頭のいい子”が公立トップへ
だが、じつはこの他の要因も大きいと考えられる。まず、これも今年特有のことだが、地方の優秀生が地元にとどまり、東大を受けない受験生が多かったことが挙げられる。
そして、これはあまり指摘されていないことだが、今年の卒業生の中学受験に当たる年は2015年だった。2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災を経て、中学受験率が低かった年である。
つまり地頭のいい子が公立中学に進み、そうした子が公立トップ校に進学したとみられる。
「学区撤廃」で特定校に人気集中
公立高校の中でも特に目立ったのが、日比谷、横浜翠嵐、浦和といった各都県の最難関校の躍進である。なぜ各都県で共通してこうした1極集中化が起きたのか。それには施策的な要因がある。
かつては、どこの都道府県でも普通科には居住地による通学区域の指定があった。それが規制緩和の流れを受けて学校選択の自由化を狙いとして、2003年の東京都を皮切りに学区が撤廃され出した。現在、全国の半数以上の県が学区を撤廃しており、首都圏で学区が残っているのは千葉県だけだ。
その結果、学力に自信のある生徒が特定の学校に集中するようになった。実際、どの県でも、交通の便のよい学校、大学進学実績の高い学校に人気が集まるようになっている。