かつては「やせている」ということが褒め言葉だった。しかし、そういった価値観は過去の元となり、ありのままの自分を尊重することが広く受け入れられるようになりつつある。また“やせていれば美しい”という信仰が、心身に深刻な被害をもたらすこともある。数々の最新の科学的研究が「太り気味の方が健康だ」と証明しているのも事実だ。
現在プラスサイズモデルとして活躍する吉野なおさん(35才)は、子供の頃に「やーい、デブ!」「そんなに食べたらまた太るよ!」と言われ続けてきたという。彼女のように幼少期に太っていることを理由につらい体験をすると、摂食障害が生じやすくなると、精神科医の樺沢紫苑さんが指摘する。
「子供の頃に体形のことでいじめられるなど、トラウマを抱えている人は、過食や拒食といった摂食障害になる可能性が高い。ストレスからくる食欲を抑えきれずに過食し、食べてしまった罪悪感から嘔吐して体重が急激に増減します。
現在、国内には神経性の過食症の患者が1~2%、神経性のやせ症の患者が0.2~0.4%ほどいるとされています。そして、こうした摂食障害を抱える人は、うつ病を併発することが多いのです。
拒食や偏食をすると、『神経ビタミン』と呼ばれるビタミンB群や葉酸、鉄分などが不足しやすくなります。実際に、精神疾患を抱える患者の話を聞くと、“1か月連続でカップラーメンしか食べていない”“白米以外食べていない”など、極端に偏った食事を摂っているケースが目立ちます」(樺沢さん)
必要以上にやせようとすることは、心だけでなく、体にも大きな影響を与えるのは当然のこと。Y’sサイエンスクリニック広尾統括院長の日比野佐和子さんは、33才のときに偏った糖質制限ダイエットによって、3か月で17kgも減量した。
「面白いように体重が落ちるのがうれしくて、その後も糖質(炭水化物)を抜く食生活を3年間ほど続けていました。
しかし、次第に頭がボーッとするようになり、ある朝突然、右手と右足が動かなくなったのです。まるでこんにゃくのようにフニャフニャになり、救急車を呼ぶために携帯電話を握ろうとしても、持つことができない。手が、自分のものではなくなってしまったような感覚でした」(日比野さん・以下同)
やっとの思いで救急車を呼んで受診すると、一過性の脳虚血性発作と診断された。