日本政府は2050年の脱炭素社会の実現に向けた実行計画を2020年末にまとめ、そのなかで、遅くとも2030年代半ばまでに販売する乗用車をすべて電動化するという具体的な目標を設定している。はたして実際はどうなるのか。経営コンサルタントの大前研一氏が、15年後の自動車市場を展望する。
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EV(電気自動車)に関するニュースが相次いでいる。
たとえば、本田技研工業は2040年までに世界で販売するすべての新車をEVかFCV(燃料電池車)にすると発表した。4月の上海国際モーターショーでは各社が新型EVを展示し、1台48万円の格安モデル(中国・上汽GM五菱)も登場。充電式ではなく電池交換式を全車種に採用し、“中国のテスラ”と呼ばれるNIOも注目を集めている。
また、佐川急便は宅配事業で使用する軽自動車7200台を2030年度までにすべて中国製EVに切り替えると発表し、日本電産は中国でEVの一括受託に向けて20社の部品会社と連合を組むと報じられた。
いずれはEVがメインになるだろう。だが、本連載で繰り返し述べているように、日本の場合は中国のようにすぐに何が何でもEV、という方向ではなく、当面はガソリン車やHV(ハイブリッド車)との併用で最適解を探るしかないと思う。
その理由を改めて説明すると、今冬、新潟県の関越自動車道や福井県の北陸自動車道などで大雪によって立ち往生する車が相次いだが、あの状況になったらEVはにっちもさっちもいかないからだ。もし「電欠」になってしまったら、ガソリン車やHVのように携行缶などで簡単に給油するわけにいかないので、万事休すである。レッカー車に充電スポットまで牽引してもらうしかない。EVは道路上で電欠になったら、レスキュー方法がないのである。
実際、EVを使用している私の知人は東京都内から群馬県の妙義山まで出かけた際、目的地の2km手前であえなく電欠になり、レッカー車を呼んで最寄りの充電ステーションまで運んでもらう羽目になった。電池残量は十分足りると踏んで出発したが、予想以上に消費が早かったという。これはEVの致命的な弱点だ。
その一方で、日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)は「私たちの目指すゴールはカーボンニュートラル(炭素中立)なのであって、その道筋は一つではない。脱炭素の出口を狭めないでほしい」などとガソリン車廃止に傾く国の政策に重ねて異議を唱えている。本田技研工業の三部敏宏社長にしても、前述した記者発表でEVとFCVに全面移行すると宣言しながら、続く質疑応答では、そのための具体的方法は一つも明確にできず、むしろ課題をひたすら羅列することになった、と指摘されている(池田直渡氏/ITmediaビジネスオンライン5月3日付)。