三菱自動車と並び、BEV(バッテリー式電気自動車)のリテール販売のパイオニア的な存在である日産自動車。その日産が今年、BEVのSUV「アリア」を市場投入する。前評判は上々だが、はたして本当に売れるのか。自動車ジャナーナリストの井元康一郎氏が予想する。
* * *
日産は2019年度、2020年度の2期で1兆1000億円以上の純損失を出してしまった。もはやひとつのヒット作で起死回生を図れる状況ではなく、成功をひとつずつ積み重ねていくほかに復活の道はない。言い換えれば、ひとつの空振りも許されない。まさに剣ヶ峰を歩くといった感がある。
BEVは最近世界でにわかに持ち上げられているSDGs(持続可能な開発目標)を自動車分野で担保するキラーコンテンツのひとつとして注目を浴びている。クルマの脱石油、低CO2化を手軽に成し遂げられるという特性を持っており、期待を集めるのは当然の流れと言える。だが、現時点では自動車メーカーが従来のクルマと同様に収益を上げられるようなコスト構造は到底実現できていない。
日産にとってもそれは同じことで、アリアは大量に売れるクルマでもなければ、売れればどーんと儲かるというクルマでもない。が、日産というブランドをふたたびユーザーから積極的に選んでもらえるものにしていくという観点では、失敗が許されないことに変わりはない。
最近はアメリカのテスラや中国の新興BEVメーカーに話題やシェアをさらわれ、エンドユーザー向けBEVのパイオニアとしての存在感は薄れている。また、フォルクスワーゲン、ダイムラー、ステランティス(プジョー・シトロエンとフィアットの経営統合で発足したフランスのグループ)等々、BEVに巨額の投資を行う後発が現れており、それらから受けるプレッシャーも凄まじい。