「おもちゃの持ち替えができるようになった。離乳食を食べられるようになった。そういう一瞬一瞬を、全部覚えておきたいです」──屈託のない笑顔で語る彼女は、ステージIVの大腸がんと闘いながら、0才の娘を育てている。彼女は、がん宣告、妊娠・出産に至るまで、そして子育てをする日々の胸中を、日記に克明に書き記していた。
《腎瘻造設の合併症で、40℃の熱ずっと下がらないし、ストマ(編集部註・人工肛門)より下の腸が腸液パンパンで、腸閉塞おこしちゃってるし、しんどい。こっから治療進められると思ったのに、熱も下がらないし、腸閉塞も手術できないし、この状態じゃ抗がん剤できないって。しんどいしんどい。この間にも進行してってるのに……。輸液ポンプ3個持ちで心電図と腎瘻、最高に動きづらいし。
とりあえず今の点滴がものすごく効けば、また抗がん剤はじめられるから、とにかくよく効いてくれるの祈る。次から次へと問題ばかりで、もうヘトヘトだよ。早く治療させてくれ》(5月18日、インスタグラムより)
遠藤和(のどか)さん(24才)は、ステージIVの大腸がんを患い闘病中だ。現在は、都内の病院で入院生活を送っている。夫の遠藤将一さん(30才)が和さんの近況を語る。
「お腹の中で胃や肝臓、大腸など内臓を覆っている薄い膜である腹膜に転移したがんを『腹膜播種』といいます。それが尿管を圧迫して尿が出なくなっていた。そこで『腎瘻』という尿管の代わりになるものを作るため、5月上旬に入院しました。オペは無事に終わったものの、合併症で高熱を出し、なかなか退院できないんです」
和さんがいちばん気にかかっているのは最愛の娘に会えないこと──病院はコロナの影響で、面会を受け付けていない。そのため、もうすぐ1才になる娘とのコミュニケーションは、ビデオ通話か電話だ。和さんが語る。
「声が聞けるのはうれしいけれど、やっぱり直接会いたいです。娘はどんどん大きくなるし、そろそろサイズアウトするはずだから、新しい洋服を買ってあげたいな」
おととままも、のんのせいでしなくていい苦労してるよね
和さんは1997年3月20日、青森市生まれ。高校卒業後、2016年に飲食店で働き始めた。夫の将一さんは6才年上で、札幌市生まれ。大学卒業後、建築系の大手企業に就職し、2013年に青森に配属された。ふたりの出会いは2016年10月、青森市内のダーツバーでのことだった。和さんが当時を振り返る。
「遠藤さんは、なんだかいいにおいがするし、顔が歌手の森山直太朗似ですごくタイプだったんです。会ったその日に絶対につきあいたいと思った。一目惚れでした(笑い)」
和さんは猛アタック。自分からデートに誘ったり、好き嫌いが多い将一さんの口に合う料理を研究し、部屋まで押しかけて振る舞ったりした。結果、出会って10日後に交際を開始。1年後の2017年10月には、両親公認のもと同棲を始めた。
幸せいっぱいのふたりの交際は順調だったが、知らぬ間に病魔が忍び寄っていた。デート中などに、たびたび激しい腹痛に悩まされていた和さん。病院に行っても「胃腸炎」「便秘」などと診断され原因がはっきりしなかった。
和さんが21才の夏のことだ。2018年8月、救急搬送された病院で大腸に腫瘍があることが判明した。そのまま腫瘍切除手術を受け、摘出した組織は病理検査へ。その結果が出た日のことを、和さんは日記にこう記している。
〈2018年9月5日(水)
16時頃におと(父)とまま(母)だけ呼ばれて、先生と話をした。なんかあったんだろうな。とは予想してたけど、ガンだったとは。大腸ガンを、若い女性が発症する事は珍しく、他にガンがある可能性が高いため、詳しく検査する事に。
まま号泣。おとも困ってるかんじ。遠藤さんにも報告。遠藤さんは一緒に泣いた。おととままは早めに帰ってもらった。はるとゆう(和さんの妹たち)にも言った。はる号泣。
まだ21才なんだけどなあ。遠藤さんが「とりあえずしばらくは、のん(和さん)が辛いの忘れるまで、楽しい気持ちと幸せな気持ちで上書きする。」って言ってくれた。ひとりぼっちにしないでくれて、すごく嬉しい。大好き。でも、きっとすごく辛くて若いのに時間ムダにするかもしれない。まきこんでごめんね。普通の彼女がいいって言われたら、文句言わずさよならする覚悟できてます。
はるとゆうはそんな事ないのに、なんでのんだけこうなんだろ? おととままも、のんのせいでしなくていい苦労してるよね。ごめんよー。てかんじ。一睡もできんかった。まあ結果次第よね。今日は何してても涙出るわ。うけとめきれない。〉