経済成長が著しい台湾と比べて、日本経済は停滞が続いている。その背景には何があるのか。経営コンサルタントの大前研一氏は、「理系重視」の姿勢が違いを示すひとつの鍵になっているのではないか、と分析する。以下、大前氏が考察する。
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アジア開発銀行(ADB)は、2021年の台湾の経済成長率を4.6%と予想している。それに対して、日本の1~3月期の経済成長率は年率換算でマイナス5.1%となり、通年の見通しも3%に達しない可能性が指摘され、彼我の差は開く一方となっている。
台湾の経済成長を牽引しているのは電子関連製品の輸出と設備投資だ。とくに「台湾のシリコンバレー」と呼ばれる新竹に本拠を置く「TSMC(台湾積体電路製造)」と「UMC(聯華電子)」の2社を合わせると、半導体受託製造で世界の4分の3、半導体製造全体でも世界の4分の1を占めているとされる。
すでにTSMCの時価総額はサムスンやインテルを超え、半導体株ではトップとなっているが、世界的な半導体不足の中で製造が追いつかず、5万人の社員に加え今年新たに9000人の採用を予定していると報じられた(日本経済新聞3月5日付)。
また、電子機器受託製造で世界最大手の「鴻海科技集団(Foxconn)」は1~3月期の売上高が5兆2000億円を超えて、この期としては過去最高を記録した。
台湾のハイテク企業は世界的規模で成長を続けており、これらの企業がくしゃみをすると世界経済が風邪を引くと言っても過言ではない状況になっている。
文系の価値はたった5円?
一つの鍵は、理系重視だ。台湾は1951年から2018年まで徴兵制を続け、18歳以上の男子に通常2年間の兵役を課していたが、1980年から優秀なエンジニアは、兵役に就く代わりに、軍・政府の公的研究機関や民間企業に勤務することが可能になる「国防役」という制度を設け、それが事実上の兵役免除になった。その結果、能力の高い理系人材が多数輩出されたのである。
さらに、英語に堪能な台湾の若者は、欧米の理工科系の大学や大学院に留学し、その能力を生かして起業するケースも少なくない。だから、シリコンバレーで起業した経営者は、アメリカ人以外では台湾人がインド人に次いで2番目に多く、母国の人口比でもイスラエルに次いで2番目に多いのだ。そうした留学生の中から、ヤフーの共同創業者ジェリー・ヤン、半導体メーカー・エヌビディアの共同創業者ジェン・スン・ファンらが登場している。
TSMCの創業者モリス・チャンも、生まれは中国(寧波)だが、米MIT(マサチューセッツ工科大学)を卒業して米国企業でスキルを磨いた経歴を持ち、1987年にTSMCを設立した。
一方、日本は相変わらず高校で「文系」と「理系」に分けており、大学生は、7対3くらいの割合で文系が理系より多くなっている。だが、21世紀に「文系卒」の“生息領域”はほとんどない。文系の学部・学科で学ぶ知識の多くはスマートフォンやパソコンですぐに検索できるし、USBメモリーなどに入れてしまえば、その価値は高く見積もっても、せいぜい5円程度だからである。