国内外から五輪中止を求める声が強まる中、苦渋の表情が目に付く菅義偉・首相。対照的に意気軒昂なのが安倍晋三・前首相だ。会合やメディアで自らの影響力を誇示し、囁かれる「再々登板説」にもご満悦のようだ。
「これでは闇将軍だ」。菅首相の側近が安倍氏の動きを警戒した言葉だ。安倍晋三・前首相はBS番組(5月3日放送)で菅首相の「続投支持」を表明して喜ばせたのも束の間、自民党内に半導体戦略推進議員連盟(会長・甘利明氏)を結成して盟友の麻生太郎・副総理兼財務相とともに最高顧問に就任。5月21日の結成総会の冒頭、麻生氏は、「3人そろえば政局って顔だが、間違いなく半導体の話をしに来た」と語った。
「麻生さんは反語的な言い方で、この集まりは政局、つまり9月の総裁選をにらんだものだと出席者に宣言した」(政治ジャーナリストの藤本順一氏)
安倍氏は月刊誌『Hanada』7月号のインタビューで、ポスト菅について“子飼い”とも言える4人の名前を挙げた。
〈茂木敏充外務大臣は誰もが手腕を評価している。官房長官の加藤勝信さんは私の臥薪嘗胆時代から支えてもらい、アピールをせずに黙々と仕事をする珍しい政治家。下村博文さんも政調会長として党務で頑張っているし、閣外では岸田文雄さんは誠実な人柄で、外務大臣での実績は評価されています〉
菅側近はこの動きにショックを隠せない様子だ。
「名前を挙げた候補には二階俊博・幹事長が推す野田聖子氏や、菅総理が後継者に育てようとしている河野太郎氏、小泉進次郎氏は入っていない。安倍さんの意のままになる人物を据えようとしている。闇将軍と呼ばれた田中角栄さんのやり方にそっくりではないか」
田中角栄・元首相はロッキード事件で失脚した後、最大派閥・田中派の数の力で大平正芳氏、鈴木善幸氏、中曽根康弘氏を次々に首相に担ぎ上げ、時の政権に絶大な影響力を行使して「闇将軍」と呼ばれた。ロッキード裁判を戦い抜くためには、政治権力を握り続ける必要があったからだ。
安倍氏の状況も似ている。「桜を見る会」の検察捜査は乗り切ったが、東京五輪の1年延期、選挙買収事件の河井克行・案里夫妻に対する1億5000万円提供疑惑、森友問題に端を発した赤木ファイル問題は安倍氏が原因をつくった。政権に影響力を持ち続けなければ立場が危ないのだ。
※週刊ポスト2021年6月11日号