音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、柳家さん喬と柳家権太楼の『百年目』聴き比べが実現したサプライズについてお届けする。
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4月、国立小劇場での「陽春四景」で柳家さん喬と柳家権太楼の『百年目』聴き比べが実現した。
「陽春四景」は上・下の2回公演で、7日の「上」はさん喬、権太楼、兼好、萬橘が出演。さん喬がトリで『百年目』を演じた。一方、12日の「下」の出演者は権太楼、市馬、白酒、一之輔。トリの権太楼が『百年目』に入った時には驚いた。ネタ出しはなく完全にサプライズ。主催者のリクエストだという。
さん喬は向島の花見で幇間が「七段目の一力茶屋の趣向で落ちを取りましょう」と番頭を煽る。舟から陸へ上がると三味線が入り、由良之助気取りで芸者たちを追いかける番頭の描写が実に楽しそうだ。そこに出くわした旦那は翌朝、番頭を呼びだすと“栴檀と南縁草”の譬え話から入り、出来の悪かった小僧時代の番頭の思い出をしみじみ語ってから、たっぷり間を置いておもむろに「昨日の向島は楽しかったね」と切り出し、番頭を大いに慌てさせる。
「一晩中、帳面を見ました。見ているうちに私は、嬉しくて嬉しくて涙が止まらなかった。お灸を据えられて『熱い、熱い』と泣いた子が、立派な商人になった。店を任せて本当に良かった」。涙ぐむ旦那。「来年には必ず店を持ってもらいます。それまで店をお願いしますよ」。それを聞いて番頭は号泣する。
権太楼の『百年目』は、派手に遊ぶ番頭を目撃した旦那が「大変なものを見た。ここで会うわけにはいかない」と逃げようとするのが印象的だ。この時点で番頭は一年後に暖簾分けが決まっており、「あと一年だったのに……」と悔やむ。