最後の別れを前にして、愛する人に伝えたい気持ちがある。名優たちのセリフには、演技を超えた万感の思いが込められている。銀幕で描かれた「心に染み入る辞世の言葉」を、映画評論家の浜村淳氏と映画パーソナリティのコトブキツカサ氏が選んでくれた。
「人は慈悲の心を失っては人ではないぞ。己を責めても人には情けをかけろ。人は等しくこの世に生まれてきたものだ。幸せに隔てがあってよいはずがない」
『山椒大夫』(1954年、大映)より
監督:溝口健二 出演:田中絹代、花柳喜章、香川京子
【あらすじ】人買いによって母(田中絹代)と離ればなれになってしまった安寿(香川京子)と厨子王(花柳喜章)は、奴隷としてこき使われる。成長した2人はついに脱走を図り、安寿は厨子王を逃がすために池に身を投げるのだった。
「脱走した厨子王は、父の言葉を胸に人買いに復讐を果たして、奴隷を解放しました。その後、母と再会するわけですが、遊女に身を落とし、目も見えない老いた姿となってもその美しさが少しも損なわれていません。凄まじいラストシーンでした」(浜村氏)
「ありがとな」
『いしゃ先生』(2015年、キャンター)より
監督:永江二朗 出演:平山あや、榎木孝明、長谷川初範
【あらすじ】山形の農村から東京に出て医者になったばかりの志田周子(平山あや)は、父・荘次郎(榎木孝明)に呼び戻され、この村で医者になって欲しいと頼み込まれる。3年だけの約束で引き受けた周子だったが……。
「無医村に医者を置きたいという父親の願いを叶えた周子でしたが、村人全員に歓迎されたわけではありませんでした。しかし、やがて『ありがとう』と言われることの尊さを学んでいきます。死の前に、父も娘に感謝の言葉を捧げるのでした」(コトブキツカサ氏)