フジテレビの老舗ドラマ枠「月9」。これまで視聴率からドラマの内容まで、さまざまな話題を提供してきたが、今、テレビ業界で注目を集めているのが次クールの「放送日」だ。フジは、従来よりも放送日を早める戦略を採ってきたのだ。その狙いについて、コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。
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5月31日夕方、次クールの月9ドラマ『ナイト・ドクター』(フジテレビ系)の初回放送日が早くも報じられました。通常、夏ドラマは7月からのスタートであり、初回放送日の発表はもう少し先のはずです。
しかし、『ナイト・ドクター』の初回放送は6月21日でした。これまで1か月程度遅いスタートは何度かありましたが、前月に早めるのは月9ドラマ史上初。異例の方針に発表当日は、業界内と一部視聴者の間でひそかに話題となっていました。
テレビ業界では「○時ちょうど」ではなく、他局に先んじて「○時55分」「○時58分」などの数分早い時刻にスタートすることを「フライングスタート」と呼んでいますが、月9ドラマは数分どころか数週間もフライングスタートする戦略を採用したのです。
なぜフジテレビは看板ドラマ枠の月9で思い切った戦略を採ったのでしょうか。その背景を掘り下げていくと、“堅守速攻”という戦略が見えてきました。
来年1月期のドラマを早くも撮影
まずスタート日時を早めることになった理由として挙げられるのが、東京オリンピック対策。夏期オリンピック開催年の夏ドラマは競技中継で休止になる機会が頻繁にあり、苦戦を強いられてきました。
そのためテレビ業界では「挑戦的な作風は避け、手堅いジャンルを選ぶ」「1~2回放送がなくても影響の少ない1話完結型にする」のがセオリー。実際、『ナイト・ドクター』は、最も手堅いと言われる医療ドラマであり、しかも『救命病棟24時』『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』で実績のある救命医が主人公の作品です。
また、昨年コロナ禍が深刻化する前の春ドラマも東京オリンピックを踏まえて、「手堅い1話完結のリーガルドラマ『SUITS/スーツ2』を月9ドラマ史上最長話数で放送する」ことが明かされていました。つまり、「通常は6月中旬あたりに終わる春ドラマを東京オリンピック開催直前の7月中旬まで放送する」という異例の編成を予定していたのです。
結果的に東京オリンピックの延期が決まり、さらにコロナ禍で撮影休止を余儀なくされ、別作品の再放送が行われるなど、当初の狙いからは大きく外れました。そんな不運を経た今年は、「『イチケイのカラス』最終回の翌週に『ナイト・ドクター』をスタートさせる」という、よりアグレッシブな戦略を採用し、「中盤まで放送して軌道に乗せてから東京オリンピックを迎える」という形になるのでしょう。
スタート時期が早くなれば、当然ながら撮影スケジュールも早めなければいけません。さらに、いまだコロナ禍が終息せず、「再びいつ撮影休止に追い込まれるかわからない」「東京オリンピックが開催されるかわからない」という先が読めない状態が続いていることで、月9ドラマは撮影スケジュールをかなり前倒ししています。
波瑠さん主演の夏ドラマ『ナイト・ドクター』に加えて、窪田正孝さん主演の秋ドラマ『ラジエーションハウス~放射線科の診断レポート~』も現在撮影中。加えて3日朝、菅田将暉さん主演の来年1月期冬ドラマ『ミステリと言う勿れ』の放送が発表されました。「菅田さんが多忙だから」という理由もありますが、すでに撮影が進んでいることから、月9ドラマがどのドラマ枠よりも早く撮影を進めているのは間違いありません。