正直者が馬鹿を見る、とは、悪賢い者がうまく立ち回って得をする一方で正直者がひどい目にあうことをあらわす慣用句だが、遠足も修学旅行も運動会も中止になった子供たちは、そんな気持ちなのかもしれない。ライターの森鷹久氏が、2021年のいま、大人たちが、子供の素朴な問いかけに窮するのはどんなときなのかについてレポートする。
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新型コロナウイルスの感染者数はここにきて横ばいに落ち着き、世論の耳目は「東京五輪」が本当に開催されるのかということに向いているようにも思える。だが、そんな世情を見た子供達が、素朴な疑問を親たちにぶつけてきて、親たちは答えに詰まり途方にくれているというのだ。
「子供が楽しみにしていた最後の運動会も、リレーなどほとんどの種目は中止で、学年ごとにたった1時間だけダンスと体操をして終わりました。残念がる子供が自宅に帰ったところ、テレビニュースで『東京五輪は開催する』と出演者の方が仰っていたんです。それを見た子供から、運動会は出来ないのにオリンピックはなぜやるのかと聞かれて、押し黙るしかありませんでした」
悲しげな様子で筆者に打ち明けてくれたのは、千葉県内在住の会社員・富永英子さん(仮名・40代)。小学6年の息子は、去年の運動会もコロナ対策での「時短開催」だったため、小学校最後の運動会では「絶対にリレーで一番になる」と鼻息も荒かった。だが結局、今年の運動会も時短で縮小開催になってしまった。落ち込んでいた息子が、より感染の危険が高そうなオリンピックだけがなぜか「開催される」ことに疑問を持つのも当然だ。
「それ以前にも、子供はなるべく外に出ちゃいけない、と教えていたところ、テレビ画面にはマスク姿で旅行をする芸能人の姿が出てきたんです。子供の行事はほとんど中止になり、公園へ遊びに行くのも恐る恐る、という時期でした。とくに説明を求められることもなかったのですが、芸能人などの『えらい人』は外に出ても大丈夫なんだ、なんて自分を無理やり納得させているようでした。色々と考え込んでいるらしいのが分かっていたのに、親としてかける言葉すら見つからず、情けない思いをしました」(富永さん)
関東南部の公立小学校勤務・高田孝俊さん(仮名・20代)もやはり、子供たちに「コロナ禍の矛盾」を突きつけられて窮してしまったと訴える。
「昨年の6年生の修学旅行中止が決まったあと、親御さんは出張で遠くに行っている、なんて話をある生徒がしはじめました。それをきっかけに、大人はよくて、どうして修学旅行はダメなんだという雰囲気になってしまって、お仕事なんだから仕方がないよ、と苦し紛れの説明をしましたが、子供たちは納得がいっていない様子でした」(高田さん)