〈夏の東京五輪 中止の決断を首相に求める〉と社説(5月26日付)で訴え、話題を集めた五輪スポンサーの朝日新聞。一方で同日、公式サイトで〈オフィシャルパートナーとしての活動を続けてまいります〉と声明を出すなど、五輪を巡る朝日の対応は一貫していない。朝日社員が言う。
「十分な社内議論を経ずに社説の掲載が決まったこともあり、反発の声は大きかった。スポンサーという立場はもちろん、大会組織委員会にはウチの“身内”もいますから。表立って中止を訴えることに否定的な社員は少なくないんです」
この“身内”とは、組織委に出向中の朝日社員を指す。
元JOC(日本オリンピック委員会)職員で長野オリンピック招致に携わったスポーツコンサルタント・春日良一氏が語る。
「組織委には開催地である東京都や国などの職員のほか、スポンサー企業からも多くの社員が出向しています。各社から部課長クラスが送り出され、組織委内の課長やディレクターなどの役職に就くのが主流です」
五輪オフィシャルパートナーに名を連ねる新聞社は朝日のほか、読売新聞社、毎日新聞社、日経新聞社の計4社。各社に組織委への出向状況を聞くと、朝日は「事業部門の社員1名が出向しています」(広報部)と認めたが、日経と毎日は「出向させていない」(ともに広報部)と回答。読売は「社員の人事に関する質問にはお答えしておりません」(広報部)とのことだった。
春日氏が語る。
「朝日は事業部の社員ということなので、組織委では販売や広告、企画事業などの管理部門に携わっているものと思われます。メディア対応に近いセクションということも考えられますね。出向者は元の職種に近い業務に就くのが通例です」
オフィシャルパートナーの久光製薬は出向社員の座談会をホームページに掲載しており、人事部に所属していた女性が組織委でも人事を担当していると明かしている。
「社員が五輪業務を担っているという状況で、朝日があの社説を書いたのは勇気あることだと思いますが、一方でスポンサー活動の継続を発表するにあたり、苦しい立場が伝わります。社員が出向していれば、もはや“関連企業”と言われても仕方ありません。こんな状況で公正な報道ができるかは疑問です」(春日氏)
出向者の「給料」はどう支払われているのかというと、「賃金等は各出向元様にご負担いただいております」(組織委戦略広報課)とのこと。
多額のカネを出した上に、自らのペンを縛っている構図が浮かび上がる。
※週刊ポスト2021年6月18・25日号