21世紀は巨大災害の世紀となるのではないかとも言われている。地震やハリケーンなどの災害が世界で相次ぎ、いまは新型コロナウイルスによるパンデミックが発生した。諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師が、災害を乗り越えるために必要な「逆境力、レジリエンス」について述べる。
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フジテレビ系で全国放送されている「テレビ寺子屋」という番組に何年も出演している。今年は、東日本大震災10年ということで、宮城県丸森町で収録することになった。丸森町に行くことが決まったときから、ぼくは「丸森物産いちば八雄館」に行こうと決めていた。赤いパンツを買うためだ。
さっそく、テレビの収録前に買いに行った。パンツはフリーサイズの1サイズのみ。包帯パンツでよく伸びる。男性も女性も穿けるユニセックス仕様だ。
パンツを広げて中を覗くと、赤い地に黒い文字がプリントされていた。「メメントモリ」と読めた。ラテン語で「死を想う」という意味である。この文字は、180度反転させると「メメントウィウィーレ」(生を想う)という文字になる。前後がないパンツなので、穿き方によってメッセージが異なるというひねりのあるデザインだ。
パンツを脱ぎ穿きするたびに、死を想い、生を想う。ぼくはこのパンツを、東京に行くときや、ここぞという仕事のときの“勝負パンツ”にした。
断水で洗濯ができない住民に400万円分の在庫を寄付
赤パンツは、ザミラというベンチャー企業が作っている。扱っている商品は、このパンツのみ。地域おこし協力隊の男性が、丸森町に新しい風を起こそうと始めた。
一時期、販売を中止していた時期があった。2019年台風19号による豪雨災害で、丸森町は大きな被害を受けた。断水し、多くの人が「下着をかえられない状態」で困っていることを知り、赤パンツの在庫のほぼすべてを避難所に寄付した。定価換算で400万円近くになる。地元の銭湯は赤パンであふれた。さぞ壮観だったろう。
「レジリエンス」という言葉を思い出した。もともとは物理学の用語で、「回復力」「復元力」「反発力」などという意味である。心理学でも、ストレスや困難に対する「折れない心」という意味でも使われている。
ザミラのパンツも、よく伸びて、元にもどる。これも、レジリエンスだ。というのは半分冗談だが、東日本大震災、原発事故、台風による豪雨災害……いくつもの苦難が襲うなかで、あきらめずに前を向いていく姿勢にこそ、レジリエンスを感じた。
壁新聞が伝えたのは「折れない心」
石巻市に「レジリエンス・バー」というカフェがある。手作りケーキや地元産の生ウニパスタなどが食べられる。コロナ以前、夜はお酒と音楽ライブを楽しめる場だった。
このバーは、東日本大震災の翌年、ニュースの博物館「石巻ニューゼ」とともにオープンした。ここには、被災直後の町の写真や石巻日日新聞の歴史、そして、震災直後、避難所の壁に張り出された「壁新聞」などが展示されている。
ぼくがMCを務めるラジオ番組「日曜はがんばらない」(文化放送、日曜朝6時20分~)に、石巻日日新聞の近江弘一社長をお迎えしたことがある。輪転機が水没して新聞を出せなくなった。そのとき、記者たちは自転車で町中を駆け回り取材。被災者の視点で必要な情報を、大きな模造紙に手書きで書き込んだ。その心意気は、情報以上に避難所の人たちを励ましたように思う。