ライフ

鎌田實氏 災害を乗り越えるのに必要なのは「逆境力、レジリエンス」

諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師

諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師

 21世紀は巨大災害の世紀となるのではないかとも言われている。地震やハリケーンなどの災害が世界で相次ぎ、いまは新型コロナウイルスによるパンデミックが発生した。諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師が、災害を乗り越えるために必要な「逆境力、レジリエンス」について述べる。

 * * *
 フジテレビ系で全国放送されている「テレビ寺子屋」という番組に何年も出演している。今年は、東日本大震災10年ということで、宮城県丸森町で収録することになった。丸森町に行くことが決まったときから、ぼくは「丸森物産いちば八雄館」に行こうと決めていた。赤いパンツを買うためだ。

 さっそく、テレビの収録前に買いに行った。パンツはフリーサイズの1サイズのみ。包帯パンツでよく伸びる。男性も女性も穿けるユニセックス仕様だ。

 パンツを広げて中を覗くと、赤い地に黒い文字がプリントされていた。「メメントモリ」と読めた。ラテン語で「死を想う」という意味である。この文字は、180度反転させると「メメントウィウィーレ」(生を想う)という文字になる。前後がないパンツなので、穿き方によってメッセージが異なるというひねりのあるデザインだ。

 パンツを脱ぎ穿きするたびに、死を想い、生を想う。ぼくはこのパンツを、東京に行くときや、ここぞという仕事のときの“勝負パンツ”にした。

断水で洗濯ができない住民に400万円分の在庫を寄付

 赤パンツは、ザミラというベンチャー企業が作っている。扱っている商品は、このパンツのみ。地域おこし協力隊の男性が、丸森町に新しい風を起こそうと始めた。

 一時期、販売を中止していた時期があった。2019年台風19号による豪雨災害で、丸森町は大きな被害を受けた。断水し、多くの人が「下着をかえられない状態」で困っていることを知り、赤パンツの在庫のほぼすべてを避難所に寄付した。定価換算で400万円近くになる。地元の銭湯は赤パンであふれた。さぞ壮観だったろう。

「レジリエンス」という言葉を思い出した。もともとは物理学の用語で、「回復力」「復元力」「反発力」などという意味である。心理学でも、ストレスや困難に対する「折れない心」という意味でも使われている。

 ザミラのパンツも、よく伸びて、元にもどる。これも、レジリエンスだ。というのは半分冗談だが、東日本大震災、原発事故、台風による豪雨災害……いくつもの苦難が襲うなかで、あきらめずに前を向いていく姿勢にこそ、レジリエンスを感じた。

壁新聞が伝えたのは「折れない心」

 石巻市に「レジリエンス・バー」というカフェがある。手作りケーキや地元産の生ウニパスタなどが食べられる。コロナ以前、夜はお酒と音楽ライブを楽しめる場だった。

 このバーは、東日本大震災の翌年、ニュースの博物館「石巻ニューゼ」とともにオープンした。ここには、被災直後の町の写真や石巻日日新聞の歴史、そして、震災直後、避難所の壁に張り出された「壁新聞」などが展示されている。

 ぼくがMCを務めるラジオ番組「日曜はがんばらない」(文化放送、日曜朝6時20分~)に、石巻日日新聞の近江弘一社長をお迎えしたことがある。輪転機が水没して新聞を出せなくなった。そのとき、記者たちは自転車で町中を駆け回り取材。被災者の視点で必要な情報を、大きな模造紙に手書きで書き込んだ。その心意気は、情報以上に避難所の人たちを励ましたように思う。

関連キーワード

関連記事

トピックス

田村瑠奈被告(右)と父の修被告
「ハイターで指紋は消せる?」田村瑠奈被告(30)の父が公判で語った「漂白剤の使い道」【ススキノ首切断事件裁判】
週刊ポスト
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
暴力団幹部たちが熱心に取り組む若見えの工夫 ネイルサロンに通い、にんにく注射も 「プラセンタ注射はみんな打ってる」
NEWSポストセブン
10月には10年ぶりとなるオリジナルアルバム『Precious Days』をリリースした竹内まりや
《結婚42周年》竹内まりや、夫・山下達郎とのあまりにも深い絆 「結婚は今世で12回目」夫婦の結びつきは“魂レベル”
女性セブン
騒動の発端となっているイギリス人女性(SNSより)
「父親と息子の両方と…」「タダで行為できます」で世界を騒がすイギリス人女性(25)の生い立ち 過激配信をサポートする元夫の存在
NEWSポストセブン
宇宙飛行士で京都大学大学院総合生存学館(思修館)特定教授の土井隆雄氏
《アポロ11号月面着陸から55年》宇宙飛行士・土井隆雄さんが語る、人類が再び月を目指す意義 「地球の外に活動領域を広げていくことは、人類の進歩にとって必然」
週刊ポスト
九州場所
九州場所「溜席の着物美人」の次は「浴衣地ワンピース女性」が続々 「四股名の入った服は応援タオル代わりになる」と桟敷で他にも2人が着用していた
NEWSポストセブン
初のフレンチコースの販売を開始した「ガスト」
《ガスト初のフレンチコースを販売》匿名の現役スタッフが明かした現場の混乱「やることは増えたが、時給は変わらず…」「土日の混雑が心配」
NEWSポストセブン
希代の名優として親しまれた西田敏行さん
《故郷・福島に埋葬してほしい》西田敏行さん、体に埋め込んでいた金属だらけだった遺骨 満身創痍でも堅忍して追求し続けた俳優業
女性セブン
佐々木朗希のメジャーでの活躍は待ち遠しいが……(時事通信フォト)
【ロッテファンの怒りに球団が回答】佐々木朗希のポスティング発表翌日の“自動課金”物議を醸す「ファンクラブ継続更新締め切り」騒動にどう答えるか
NEWSポストセブン
越前谷真将(まさよし)容疑者(49)
《“顔面ヘビタトゥー男”がコンビニ強盗》「割と優しい」「穏やかな人」近隣住民が明かした容疑者の素顔、朝の挨拶は「おあようございあす」
NEWSポストセブン
歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
天皇陛下にとって百合子さまは大叔母にあたる(2024年11月、東京・港区。撮影/JMPA)
三笠宮妃百合子さまのご逝去に心を痛められ…天皇皇后両陛下と愛子さまが三笠宮邸を弔問
女性セブン