2020年の人口動態統計(厚生労働省)によると、1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率は1.34と5年連続低下している。社会問題、経済問題として大きな課題と長年、言われてきた少子化対策だが、ハラスメント対策同様、なかなか職場のマインドが整わない。ライターの森鷹久氏が、男性の育児休暇取得に伴う、同僚男性とのつきあいの難しさなどについてレポートする。
* * *
男性でも「産休」が取りやすくなる制度を盛り込んだ「改正育児・介護休業法」が3日、衆議院で可決した。具体的には、企業に対して男女の区別なく社員に育休を取る意思があるのか確認する義務を課し、さらに男性に生後2ヶ月以内に最大で1ヶ月の「産休」を取ることができる制度も新たに設けられる。
こうやって新制度について聞けば、いいことづくめの法改正にも思えるが、現状を見てみると、本当に「うまく行くのか」という声も聞こえてくる。
「男性社員でも育休を取るよう、人事や労組から呼びかけが行われているのですが、実際に育休を取った男性社員は数名。何千人もいる会社なのにですよ。風穴を開けるつもりで思い切って育休を取ったんですけどね…」
神奈川県内の大手機械メーカー勤務・宝田真一さん(仮名・30代)は3年前の長男が生まれたとき、男性でも育休や産休を取れる、と社内の先輩から聞いた。実際に育休や産休を取った、という先輩がいなかったため気後れしたが、当時の女性上司に理解があったため、出産直後から1ヶ月の間「育休」名目の休業に入った。
ところが、1ヶ月後に出社すると、職場の雰囲気がどうも変。アドバイスをくれた先輩に聞いたところ、自身の育休中に急な異動となった女性上司に代わり、新しい男性上司がやってきていたことが原因だった。
「この上司が最悪で、育休なんて男がとってどうするの、子供におっぱいでも吸わせるのか、と信じられないようなことを言ってきたのです。上司は50代後半で、子育ては全て嫁任せ、自宅に帰れば『メシ、フロ、ネル』しか発しない典型的な亭主関白っぷりを誇るような人。事あるごとに『育休くん』などと呼ばれて、本当に辛かった」(宝田さん)
結局のところ、制度があっても男性が産休や育休を取ることは難しいと感じた宝田さん。あれから3年が経ち、職場で産休や育休を取る男性社員もちらほら増えたが、年配の上司達は今なお「育休取るような奴は出世できない」と陰口を叩いているという。
制度が「義務」になれば、こうしたイヤミ上司たちも口を閉じるし、いまどきはパワハラにあたるのではないかと思う方もいるだろうが、淀んだ「男の世界」ではそう簡単にもいかない。