東京五輪の開催で懸念されるのが「変異株」の流入による新型コロナの感染拡大だ。関西福祉大学教授(渡航医学)の勝田吉彰氏が指摘する。
「ウイルスは人の体内で自らを複製することで増殖する。その過程で遺伝子情報の複製ミスが起こると変異株が生まれます。体内で生じた変異株のほとんどは死に絶えますが、まれに生き残って定着し、積極的に感染を拡大していく。
政府が水際対策を強化しても、こうした変異株は国内に流入しています。短期間に10万人近くの外国人が入国する東京五輪では、変異株の流入リスクは当然高くなります」
現在、WHO(世界保健機関)はイギリス株、ブラジル株、南アフリカ株、インド株の4種を「VOC(懸念すべき変異株)」に指定。いずれも感染力が強く、神戸で発見されたイギリス株は従来のウイルスの1.32倍の感染力で、重症化リスクは1.4倍とされている。
これらが五輪を機にさらに国内に流入すれば脅威だが、それ以上に恐ろしいのが、「東京五輪株」の誕生だ。
「人の流れが増えれば、ウイルスが変異する機会を多く作ることになります。とりわけ五輪のように世界各国からやってきた不特定多数が共通の目的を持って一か所に集まる『マスギャザリング』と呼ばれる状況では、新たな変異株が誕生するリスクが高くなる」(勝田氏)
5月29日、感染者が急増中のベトナムで新たな変異株が確認された。このベトナム株はイギリス株とインド株の特性を併せ持ち、同国のグエン・タン・ロン保健相は「(既存株より)空気中での感染力がかなり強い」と警告を発した。
「詳細は不明ですが、ベトナム株はイギリス株とインド株が同時流行する中で生まれた混合型の変異株だと考えられます。ウイルスは生き残るために強い感染力を持ったウイルスへと進化する傾向がある。東京五輪下で、さらに感染力が強い変異株が生まれる可能性は否定できません」(勝田氏)