6月7日午前9時20分頃、都営浅草線中延駅(東京・品川区)のホームで、日本オリンピック委員会(JOC)の経理部長、森谷靖さん(享年52)が線路に飛び込み、電車にはねられ死亡した。今回の東京五輪に際して森谷さんは、JOCの経理部長として奔走していたという。
「オリンピックの金銭管理はとにかく激務を極めます。動く金額の桁も違うし、寄付金や広告宣伝費も多岐にわたる。さらには、ただ机の上で計算をしていればよいわけではなく、各種業界団体の委員会に出席して説明を尽くしていかないといけない。森谷さんも経理部長として飛び回る日々でした」(五輪関係者)
巨額の五輪マネーが丸ごとその双肩にのしかかるJOC経理部長職。想像しただけでストレスに押しつぶされそうだが、これまでの「五輪とカネ」をめぐる問題を振り返ると、森谷さんのさらなる心労が透けて見えてくる。
国会での追及が始まった
約5年前、世界的な騒動へと発展したのが、国際オリンピック委員会(IOC)の委員に対する東京五輪招致の買収工作だ。
「フランス司法当局が本格捜査に乗り出し、JOCも捜査対象になっていました。JOC幹部らで組織した招致委員会(現在は解散)が、シンガポールのコンサルタント会社を通じて“アフリカ票”に影響力を持つIOC委員とその息子に多額の送金を行っていたことが明るみに出たのです。この件で当時のJOC会長だった竹田恒和氏は容疑者として捜査される事態に発展。ほかにも招致活動をめぐって、大手広告代理店の電通元専務に招致委員会が約9億円を払っていたり、経理書類が紛失したりと、次から次へと問題が噴出したのです」(広告代理店関係者)
“招致”における疑惑に留まらず、“開催”におけるカネ問題が噴出したのは今年5月のことだった。
「大前提として、亡くなった森谷さんはJOCの経理部長であり、今回の問題の東京オリパラ組織委員会とは別組織の話ではありますが……」と、全国紙記者が前置きをしながら語る。
「5月26日の衆院文科委員会にて、組織委が広告代理店に委託している会場運営の人件費が、1人あたり1日35万円と、あまりにも高額であると指摘されたのです。さらに6月5日の『報道特集』(TBS系)では、組織委の現役職員が出演し内部告発。会場での運営費用のうち10~15%を“管理費”として広告代理店へと支払う不透明なカネの流れを証言しました」
徐々に表沙汰になる「五輪とカネ」問題。それは組織委だけでなく、JOC内部でも密かに問題視されていた。