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「いやだわ、あの人。あんなに若いのに優先席に座ってる」……そう心の中でつぶやき、疲れた脚にムチ打ってつり革につかまっているあなたは素晴らしい。なぜなら、いまの日本人にとって、立っていることこそ、健康を保ち、寿命を延ばす秘訣だからだ──。
家にこもりっぱなしでいると、体を動かす機会が減り、気づけば一日中いすやソファに座ったままだった、ということも珍しくない。
早稲田大学スポーツ科学学術院教授の岡浩一朗さんは、コロナの影響で、日本人は1日あたり40分近く、座位時間(仕事や移動、食事なども含めた、すべての座っている時間)が増えたと話す。
「平均的な日本人は、1日のうち55~60%近く、座って過ごしていることになります。掃除などの強度の低い活動をしている時間は、1日の35~40%、ウオーキングやランニング、スポーツに匹敵するような中強度以上の活動をしている時間は、1日のうちわずか5%程度でしかないのです」
もともと、日本人の座位時間は、平均して1日8~9時間程度。NPO法人予防医療推進協会理事長の佐々木さゆりさんによれば、これは世界で最も長いという。
ただでさえ「座りっぱなし」の日本人は、この自粛生活でますます立ち上がらなくなっているのだ。
座れば座るほど寿命が縮んでいく
「確かに、座りっぱなしだと肩がこったり、腰が痛くなったりするのよね。でも、死ぬわけじゃないし……」と高をくくってはいないだろうか。
1950年代、世界的な医学誌『ランセット』に、ある研究報告が掲載された。英ロンドンの2階建てバスの車掌と運転手では、運転手の方が心臓病などによる死亡リスクが高いことがわかった。同じ労働時間でも、ずっと座っている運転手の方が、1階と2階を移動して乗客の切符を切ったりする車掌よりも死亡リスクが高かったのだ。
「座位時間と死亡リスクの関係は20年ほど前から本格的に研究されるようになり、2012年には、1日に11時間以上座っている人は、1日の座位時間が0~4時間の人よりも、40%も死亡リスクが高いことがわかりました。
さらに、オーストラリアの研究では、1日に4時間以上、座ってテレビを見ている人は、その時間が2時間未満の人と比べると、死亡リスクが1.5倍にもなっている。
これをもとに試算すると、座っている時間が1時間延びるごとに、余命は22分ずつ縮んでいくことになります」(岡さん・以下同)
座っているだけで全身の機能が衰える
ではなぜ、ただ座っているだけで、寿命が短くなるのだろうか。大きな要因の1つは、血流の低下だ。
「人間の筋肉は、その70%が下半身にあります。座位時間が長く下半身を動かさないでいると、“第二の心臓”とも呼ばれるふくらはぎが、下半身の血液を心臓に押し戻すポンプとしての役割を、充分に果たせなくなるのです」