「国民の命と健康を守るのは私の責務だ。五輪を優先させることはない」。そんな言葉とは正反対に、菅義偉・首相は国民の「安心と安全」などそっちのけで東京五輪の開催に邁進中だ。
6月1日にソフトボールの豪州代表チームが事前合宿のため来日したのを皮切りに、これから各国選手団が続々やって来る。もはや後戻りできない“なし崩し開催”を狙っている。
五輪には観客も入れるつもりのようで、「野球やサッカーは緊急事態宣言下でも5000人規模でやっている。対応できる」と会見で言い切った。
国民の支持を失った首相が“幻視”しているのは、五輪成功による“バラ色の政権の未来図”だ。
「いまは国民の反対が強くても、ワクチン接種が進めば五輪開幕(7月23日)までに感染者は大きく減り、ムードは変わる。日本勢のメダルフィーバーで五輪は盛り上がり、その余勢を駆ってパラリンピック直後の9月に解散・総選挙を打つ。そうすれば自民党は勝利し、長期政権の道が拓ける」(菅側近)
そのシナリオに欠かせないのが「メダルフィーバー」だ。
日本オリンピック委員会(JOC)は東京五輪で「金メダル30個」を目標に掲げ、橋本聖子・組織委員会会長はリオ五輪の選手団長時代に、「東京五輪で開催される33競技で、各競技最低でも1つメダルを取る」「メダル総数は(リオの)倍増以上」とブチ上げた。リオ五輪の日本のメダルは過去最多の41個。その倍となると「82個」である。
ところが、有力競技団体の幹部や強化コーチの間では、過剰な期待に不安が強まっている。組織委関係者が語る。
「コーチらは選手たちのモチベーションを心配している。国民の多くが五輪中止や延期を求めている状況では、メダルが有望な競技でも“こんな時期に開催してすみません”という気持ちでは本来の力は発揮できない。金30個どころか、“一桁だったらどうしよう”という声まである」
国民の中止論を押し切って五輪を開催した挙げ句、期待された競技で軒並みメダルを逃せば、“やっぱりやらなければよかった”と国民の反発はさらに強まるだろう。