6月11日から英国・コーンウォールでG7(主要7カ国)首脳会議が始まる。菅義偉首相やバイデン米大統領にとっては対面での多国間会議の“デビュー戦”となり、首脳宣言に東京五輪・パラリンピックの「開催支持」が明記されるかなどが注目される。そうした中、各国の首脳同士が対面する場で注視されるのが「食事のメニュー」だ。そこから、どのようなメッセージが読み取れるのか。
5月22日に行なわれた米韓首脳会談後、韓国・文在寅大統領は「最高の訪米であり、最高の会談となった」と自画自賛した。会談前には、中国・北朝鮮への対応で米国の不信を買い、コロナワクチンを巡ってバイデン政権の対応に強い不信感を示した文大統領だったが、好物の「クラブケーキ」でもてなされたことに機嫌を良くしたのかもしれない。
米韓会談前、韓国マスコミの関心事の一つは「昼食会のメニューは何か」ということだった。4月の日米首脳会談で菅義偉首相に用意されたのはハンバーガー。バイデン大統領との“初顔合わせ”の順番でライバルの日本に後れをとった韓国大統領府は、ホワイトハウスに「ハンバーガーよりも格式のある昼食」を強く要求したと伝えられる。
結果、会談を兼ねた昼食会では海産物好きの文大統領のために「クラブケーキ」(カニ肉にパン粉をつけて揚げたアメリカ料理)が用意された。ハンバーガーとどちらが“格上”かはさておき、翌日の韓国紙は「(日本の)ハンバーガー会談と対照的」「米国の誠意の表れ」とこぞって賞賛した。
外交の場で供される料理は、相手国が自国をどう評価しているかの目安になり、メニューにメッセージや皮肉が込められることもある。2002年、日朝会談で北朝鮮を訪れた小泉首相一行は、北が提案した昼食会を拒否。持参した幕の内弁当やおにぎりで腹を満たした。会食という「もてなし」が、駆け引きに利用されることすらあるからだ。
ホスト国としては、自国の存在感を示す場でもあるが、日本の歴代政権の中でも安倍晋三・前首相は「饗宴外交」に注力したと言われる。毎日新聞客員編集委員で『饗宴外交』『ワインと外交』などの著書がある西川恵氏が振り返る。
「安倍前首相は第2次政権で200回を超える晩餐会(午餐会)を持ち、活発な首脳外交を展開しました。それまで晩餐会は首脳会談後の“付け足し”のようなもので、官邸は『フランス料理にフランスワインを出しておけばよし』という風潮だったが、安倍氏は和食に日本ワインと日本酒のメニューにするよう指示し、日本の農産物・食品の宣伝と輸出の機会として徹底活用したのです」
昨年2月、エストニアのラタス首相を賓客に迎えた晩餐会で、西川氏の目を引いたのは〈食事〉として出された「海老のかき揚げ天丼」だったという。
「この日、肉料理として出されたのは『和牛の網焼き』だけで、他はほぼ魚介類でした。ラタス首相の好みを事前に把握していたと思われますが、晩餐会でどんぶり物が供されるのは興味深い。どんぶり物という庶民の食を洗練させて外交饗宴の一品にしたのです」(西川氏)