「平成の猛牛」と呼ばれ人気を博した大相撲の元前頭・豊響が、6月9日にオンラインで引退会見を開いた。年寄「山科」を襲名し、今後は境川部屋付きの親方として後進の指導にあたる。大関・朝乃山への6場所出場停止処分などが決まった同11日の協会の理事会では、元前頭・旭日松の引退と年寄「桐山」襲名が承認されたことも発表された。5月場所後には最後の仕切りでの「ホゥッ!」という発声が話題になった元関脇・琴勇輝が引退し、佐渡ヶ嶽部屋付きの君ヶ浜親方となるなど、人気力士の引退が相次いでいるが、実はいま、角界では“断髪式の大渋滞”が起きているのだという――。
両国国技館に観戦に行くと、相撲協会直販売店の「相撲土産ワゴン」には国技館カレーや相撲部屋ちゃんこなどオリジナル商品がたくさん並んでいる。そのなかの人気商品のひとつが、力士の似顔絵がプリントされたチロルチョコだ。白鵬、貴景勝、正代、朝乃山らの『横綱大関セット』、大栄翔、明生、翠富士、明瀬山らの『人気力士セット』などが販売されているが、ファンに最も人気があるのが頭に髷を載せたままの引退力士の『断髪前親方セット』だという。
元大関・豪栄道(現・武隈親方)、元大関・琴奨菊(現・秀ノ山親方)、元関脇・豊ノ島(現・井筒親方)、元関脇・安美錦(現・安治川親方)、元関脇・栃煌山(現・清見潟親方)、元関脇・嘉風(現・中村親方)、元前頭・蒼国来(現・荒汐親方)、元前頭・誉富士(現・楯山親方)という8人の“髷がついたままの親方”の似顔絵入りチョコが1セットになっている。
年寄を襲名して相撲協会に残るような引退力士は通常、半年から1年以内に国技館で引退相撲と断髪式を行なう。引退相撲は、相撲甚句、初っきり、十両、幕内の取組などの花相撲を1日がかりで行ない、その後に土俵上で力士と縁の深い関係者が大銀杏に少しずつハサミを入れていく断髪式が続く。引退して親方になってからも、このイベントが終わるまでは髷をつけたままの状態が続くわけだが、過去にそうした状態の親方がここまで多数になることはなかった。引退して親方になると、最初の仕事は本場所中の館内警備であり、花道も客席も髷をつけたままの新米親方だらけになっている。理由は新型コロナの感染拡大である。協会関係者が語る。
「引退相撲と断髪式は国技館での本場所後となる1月、5月、9月の下旬の土日に行なわれることが多い。それが新型コロナの影響でどんどん延期になっているのです。今年2月23日には、昨年1月に引退した元前頭・荒鷲(引退後は年寄株を襲名せず)の断髪式が行なわれたが、これももともとは昨年5月31日に行なわれる予定だった。当日は330人がハサミを入れたものの、関係者だけが出席する断髪式のみの開催だった。峰崎親方(元前頭・三杉磯)が今年5月で定年を迎えて部屋を閉めるため、“無観客でも致し方なし”という判断だったといいます。
満員の観客を入れた引退相撲と断髪式は、昨年2月1日に300人がハサミを入れた元関脇・豪風(現・押尾川親方)が最後。一昨年の7月場所で引退した安美錦は、当初は昨年10月4日に断髪式を予定していたが、コロナの影響で一度は今年の5月30日に延期され、その後も感染拡大が収まらないため、さらに来年5月29日への再延期が決まった」