東京五輪のパブリックビューイングは全国250カ所以上で開催予定だという。だが、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長が、東京オリンピック、パラリンピックのパブリックビューイングは実施を控えるべきだと6月9日に表明した。専門家の見解が明らかになった影響なのか、中止を発表する自治体が相次いでいる。俳人で著作家の日野百草氏が、パブリックビューイング会場予定とされた、井の頭恩賜公園最寄り駅がある吉祥寺の飲食店を訪ねた。
* * *
「吉祥寺って狭いからさ、オリンピックで大勢押しかけるなんて無茶だよ」
吉祥寺の古くからある飲食店の店主がマスク越しの苦笑いで話してくれた。いまやここ吉祥寺、正確には武蔵野市および一部三鷹市は降ってわいたオリンピック、隣接する井の頭恩賜公園(以下、井の頭公園)で計画されているパブリックビューイング(PV)、正式名称「東京2020ライブサイト」の話でもちきりである。
「とにかく吉祥寺駅って狭いし、こちゃこちゃしてるからさ、そこに大勢押しかけて来るなんて恐ろしいよ」
JR吉祥寺駅は古い駅ビルを併設しているため一部迷路のようになっている。駅周辺もまた高度成長期の急激な開発により過密で、よく言えばコンパクトだ。商店街を含め買い物がしやすい反面、場所にもよるがバスは曲芸のように狭い道を縫って走るし、路地は自転車と通行人が入り乱れるカオスになる。コロナ禍の昨年、テレビのニュースやワイドショーで「緊急事態宣言なのにこれだけの人が!」という映像に使われたが、そういった絵面(「東京なのに雪がこんなに!」でおなじみ八王子や「深夜なのに泥酔客がいます!」の赤羽と同様の理由)が撮りやすい。いわゆる”撮れ高”のいい街だ。
「人気もあるし(都心から)近いからね」
都下とはいえ吉祥寺は新宿からも渋谷からも20分くらいと都心に近い。また日本屈指の「住みたい街」でもあるので注目度も高い。
「あれはさ、吉祥寺に便利(な店)が集まってるから、この辺だけじゃなく三鷹とか杉並とか、もっと遠くの東京のあちこちからも集まってくるんだ。田舎の県民とかも観光で来るし、吉祥寺が悪いわけじゃないのよ」
なにしろ東京どころか日本で指折りの人気スポット、家賃相場も地価も高い。住みたい街(駅)ランキングのトップ常連は伊達じゃない。そんな吉祥寺を擁するハイソな武蔵野市にオリンピックのパブリックビューイングがやってくる。正確には井の頭公園内、三鷹市側の競技場だが。
「そうは言っても(みんな)吉祥寺駅使うでしょ、まあ(京王)井の頭線使うにしろ、大勢押しかけるわけだ。コロナなのに」