一年前、新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言下で、日本中が静まりかえっていた。やり場の無い苛立ちをぶつけるように、人々は様々な業態をコロナ対策の敵と認定して攻撃した。しかし、2021年4月25日からの緊急事態宣言では、様子が違った。パチンコ店を含む床面積1000平方メートル超の集客施設を対象に休業要請、1000平方メートル以下は休業の協力依頼が行われたが、営業している店舗では行列ができる盛況ぶりで、それを囲む周囲の視線も大きく変化している。ライターの森鷹久氏が、2021年になって歓迎されるパチンコ行列と、それに伴う客や近隣の変化についてレポートする。
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「連日の行列に、満員です。一年前は本当に家族で首を括るしかないと覚悟をしていたくらいでしたから、今は天国ですね」
憑き物が落ちたかのような晴れやかな表情で筆者の取材に応じてくれたのは、都内のパチンコ店マネージャー・鈴木亮二さん(仮名・40代)。ちょうど一年前の今頃、全国で新型コロナウイルスの感染者が相次ぎ、飲食店や娯楽施設が休業や時短営業に追い込まれる一方で、鈴木さんの店は通常通りに営業をしていた。感染対策をしっかり行い、密にならないよう空調機器も導入。ここでは「絶対にクラスター(集団感染)が起きない」という自信もあったが、世間からは「不要不急の最たるもの」である遊戯場が営業していることに、強い不満の声が寄せられた。
「電話や手紙で、市民を殺す気かというようなクレームがたくさんきました。お店の玄関に液体を撒かれたり、マスコミや新聞記者が取材に来たり、変なユーチューバーがやってきて『営業している』と騒いだりされたこともあったんです。生きた心地がしませんでした」(鈴木さん)
しばらくして、店は時短営業に踏み切ったが、客足は当然減り、収益も悪化。家族からは「パチンコ店なんかで働くから」と心ない言葉もかけられた。しかし、感染拡大が続き、飲食店などが国や自治体の要請を無視した形で営業を行い始めると、形勢は一気に逆転。店の外に、かつての「行列」が戻ったのである。
「身を切るような思いで様々なイベントを行っていましたが、やっと報われたという気持ちになりましたね。お客さんからも『頑張ってくれ』なんて声をかけられまして」(鈴木さん)
店を訪れていた客も「やっと後ろめたさがなくなった」と手放しで喜んでいる様子だが、喜んでいるのは鈴木さんたちのようなパチンコ店スタッフや客ばかりではない。
東京都内のパチンコ店の近くで飲食店を営む原田妙子さん(仮名・60代)は一年前、空気を読まずに営業を続けるパチンコ店に強い嫌悪感を抱いていた一人だ。
「朝から長い行列ができて、いろんなところから来たお客さんでごった返している。マスクを外して店の外でタバコを吸う男の人もいたしね、そりゃ怖かったですし、腹も立ちました」(原田さん)
だが、パチンコ屋から客足が遠のくと、当然原田さんの店を訪れる客も減った。客のうちの何割かは、パチンコ店の客だったからだ。