映画史・時代劇研究家の春日太一氏による、週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、俳優・村上弘明が、必殺シリーズで初めて出会い、その後も長い付き合いとなった時代劇の名匠・工藤栄一監督について語った言葉を紹介する。
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村上弘明にとって、時代劇の名匠・工藤栄一監督は「師」とも呼べる存在であった。
『必殺仕事人V激闘編』(一九八五年、朝日放送)で出会って以来、さまざまな作品を共に作ってきた間柄だった。
「『必殺』で演じた『花屋の政』が鍛冶屋に職替えしたのは工藤さんの提案らしいです。『あいつは体がいいから、肩を出して野性味を強めた方がいい』と。
劇場版の時は、特にしごかれました。でも、後になって当時の映像を観ると──いいんです。必死さ、ハードな感じがよく出ていて。それはやはり、工藤さんの演出のおかげだと思っています。
『お前は下手なんだから、俺の言う通りにやれ。そうしたら、うまく見せてやる』とはよく言われました。
テレビ東京の『大忠臣蔵』(八九年)が初めての侍役でしたが、あれも工藤さんが監督でした。侍だし、今度はいよいよ中剃りだな──と思っていたら、結髪さんの所に工藤さんがやって来て、『いや、村上は地毛でいくから』って言うんですよ。かつらは付けずに、自分の頭頂部に前髪を使って髷を付ける。よかった──と思いましたね。
晩年に『新選組血風録』(九八年、テレビ朝日)でご一緒したことも印象に残っています。
シーンのラストの、僕が思いに耽るカット。テストの最中、『そこ! その角度がいい。それを覚えろ』って言うんですね。
本番が終わると、『村上、ちょっと来い』と。やはり『俺の言う通りにやってれば、お前はいい役者になるぞ』とボソッと語ってくれました。
それが僕にとって、工藤さんの最後の言葉になりました」