かつてヨーロッパ諸国は植民地で、その地を統治しやすくするために、被支配者を細かくグループ分けし対立を煽って反目させ、争わせた。本当の敵である自分たちを攻撃させないための分断統治だ。いまの日本も、似たようなことをされているのではないかと訴える役所の仕事のコールセンターで働く派遣社員に、ライターの宮添優氏が、非正規労働者たちが体験している矛盾についてレポートする。
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「支配者は、被支配者の中から厳選した人々を手下に置いて、不満を持つ他の被支配者達と対峙させるんですよ」
筆者は最初、妙なオカルト思想の人に当たってしまったか、とすら思った。コロナ禍による飲食店などへの休業、時短営業への協力金支払いに関するコールセンタースタッフ・福永良文さん(仮名・30代)は、開口一番に、こう述べたのである。
制度がわかりにくいなどとして国民から批判を受けた、新型コロナウイルス感染症関連の様々な助成金の仕組み。そうした制度に程度はあれ不満を持った国民からの問い合わせを一手に引き受ける最前線に、福永さんはいた。
「すでに来月の家賃が支払えないとか、そういう人からの問い合わせなんですね。だから結構みなさん必死です。気持ちはわからないでもありません。殺気立ってる人もいて、そういう人はいくら説明してもわかってくれないから、ある程度ガーッと吐き出してもらい、その後にゆっくり説明する。わかった気になってくれるまでやる」
理不尽なことを一方的に言い放つ人もいたが、それらを鎮める術も知っている。これは窓口役人らしいある種の「テクニック」かとも思えるが、福永さんは臨時のコールスタッフであり、手練れの役人ではない。派遣会社に登録し、期間限定でコールセンタースタッフとして働くようになった派遣社員なのだ。そればかりか、協力金や給付金について問い合わせてくる人々よりも前に、すでに仕事を失っていた。
「ニュースを見ていても思うんですよ、僕の方が大変じゃんって。だから(電話口の)相手にも、結構冷静に対応できるというか。周りからは『優しく寄り添うような口調』って褒められますけどね、優しさじゃなく、失業経験のある先輩としての同情みたいなものです。わかるよ、って」
コールセンターで働く前は、OA販売機器会社の主任だったが、ここでも待遇は派遣社員だった。それでも、派遣社員としては最上位のクラスで、給与も社員の8割程度は貰えるという恵まれた条件だった。福永さんの任務は、主に社員と派遣社員の間に入って様々な調整を行う役、といえば一般的な中間管理職を思わせるが、実態はといえば、会社の言い分を派遣という同じ立場から、他の派遣社員に理解させる役。
「クビになりたくないから会社のスパイとなって、同じ立場の派遣社員の中に潜って、不平不満ばかりの社員がいれば報告したりして。でも結局上からも下からも汚れ役を押し付けられるようになって、我慢の限界を感じていたところでコロナ。吹けば飛ぶような規模の事業所はあっけなく閉鎖となり、派遣はもれなくクビ。私の我慢も全くの無駄でした」