安倍晋三・前首相のメディア露出が増え、キングメーカー説や再々登板説が喧しい。そうした安倍氏の“復権”に向けた動きと軌を一にして、保守派論壇からは自民党の“反安倍”政治家を批判する論調が強まっている。
批判のターゲットとなっているのが、「保守派のジャンヌ・ダルク」と呼ばれ、安倍氏の“後継者候補”とみられていた稲田朋美・元防衛相だ。
稲田氏が野党と協議しLGBT(性的少数者)への理解増進法案とりまとめの立役者となったことが、保守派を刺激した。
安倍氏に近いことで知られる産経新聞の阿比留瑠比・論説委員は5月27日付のコラムで、稲田氏がかつて人権擁護法案を「率直に意見を言う愛すべき政治家の活動すら、この法案が通れば非常に危うい」と反対していたことを取り上げたうえで、
〈同様の危険性と弊害がある2つの法案に対し、稲田氏の見解がここまで違う理由が理解できない。いつどうして宗旨変えしたのか〉
と“変節”を批判し、
〈リベラル全体主義に取り込まれ、左派活動家に利用されるようでは、自民党は存在意義を失う〉
と断じた。保守論壇の重鎮、櫻井よしこ氏も産経新聞のコラム「美しき勁き国へ」(6月7日付)で「自民左傾化 危うい兆候」と題して〈私も将来を期待する稲田氏はなぜ変身したのか〉と指摘し、自民党にこう警鐘を鳴らした。
〈日本の価値観の神髄を守りながら新しい時代のより良い価値観を受け入れていくのが保守である。根幹はしっかりと維持するものなのだ。それを忘れての左傾化ならば保守層の自民党への支持は着実に消えていくだろう〉
そうした声が高まり、潮目が変わった。
LGBT法案は、自民党保守派の反対で国会での成立が見送られた。与野党が合意しながら成立しないなど異例中の異例であり、稲田氏のメンツは丸つぶれになった。
安倍側近議員が語る。
「安倍さんはこれまで稲田さんに期待して引き立ててきたが、最近は、『彼女は変わってきた。違う方向にいっているね』と残念がっている」