安倍晋三・前首相のメディア露出が増え、キングメーカー説や再々登板説が喧しい。そうした安倍氏の“復権”に向けた動きと軌を一にして、保守派論壇からは自民党の“反安倍”政治家を批判する論調が強まっている。
批判のターゲットとなっているのが、「保守派のジャンヌ・ダルク」と呼ばれ、安倍氏の“後継者候補”とみられていた稲田朋美・元防衛相だ。稲田氏が野党と協議しLGBT(性的少数者)への理解増進法案とりまとめの立役者となったことが、保守派を刺激した。
安倍氏ににらまれたのは稲田氏だけではない。
安倍氏は『月刊Hanada』(7月号)のインタビューで「ポスト菅の総理・総裁候補」として茂木敏充・外相、加藤勝信・官房長官、下村博文・政調会長、岸田文雄・前政調会長を挙げたが、世論調査で4人より上位の河野太郎・行革担当相と小泉進次郎・環境相は含まれていなかった。
保守派言論人の2人への評価から、その理由が見えてくる。
女系天皇容認論者で知られる河野氏は昨年8月に「女性も皇室に残す」と提唱し、自民党保守派の反発を買った。
安倍再々登板論者の作家・深川保典氏は『月刊Hanada』(1月号)で河野発言に強い疑問を投げかけた。
〈一時の時代の空気で二千余年にわたって連綿と紡いできた「男系男子の皇統」を絶やしていいものだろうか。祖先に対する責任と子孫に対する責任を取れるのだろうか〉
また、「脱原発」論者の河野氏と再生可能エネルギーを重視する小泉氏は、原発政策でも安倍氏と対立する。菅政権が掲げる2050年にCO2排出を実質ゼロにするカーボンニュートラル政策に関連して、安倍氏は「原発の建て替え(リプレース)」が必要だと主張し、今年4月に自民党原発リプレース議連を立ちあげて顧問に就任した。
保守論壇の重鎮、櫻井よしこ氏は、菅政権でグリーン成長戦略を担う河野氏と小泉氏についてこう注文をつけた。
〈米国や中国には、国際社会に向けて(脱炭素の)旗を立てつつ国内の産業を守っていく“したたかさ”があります。小泉氏や河野氏は理想だけでなく“したたかさ”も持ち合わせているでしょうか。(中略)「カーボンニュートラル」に前のめりになるあまり、原子力やハイブリッドなどの分野で日本が積み重ねてきた技術力が蔑ろにされる恐れがあります〉(『WiLL』4月号)
河野、小泉両氏は安倍氏とその支持者のメガネにはかなっていない。