ライフ

日本民藝館【3】柳宗悦の民藝研究と蒐集は「妻と二人三脚の賜」だった

西館(旧柳宗悦邸)2階の書斎。柳自身が設計に携わった自邸は純和風の外観ながら、書斎の出窓などに洋風の要素も採用している

西館(旧柳宗悦邸)2階の書斎。柳自身が設計に携わった自邸は純和風の外観ながら、書斎の出窓などに洋風の要素も採用

 日本美術応援団団長である美術史家・明治学院大学教授の山下裕二氏と、タレントの壇蜜が、日本の美術館や博物館の常設展を巡るこのシリーズ。今回は東京都・目黒区の日本民藝館の第3回。2人が旧柳宗悦邸(西館)を見て回る。

山下:柳宗悦は独自の審美眼で民藝という美の概念を世に提示し、陶磁器や染織品、絵画、彫刻など生活を彩る工芸品を全国から蒐集しました。

 日本民藝館の向かいに立つ石屋根の長屋門は陶芸家・濱田庄司を訪ねた折に栃木で見かけて造形に魅せられ、玄関に見立てて移築したもの。母屋を建て、72歳で亡くなるまで自邸として過ごしました。

壇蜜:西館の旧柳宗悦邸は公開日に見学できます。2階の部屋から門を望めますが、これほど間近に石瓦を拝むこともないですよね。

山下:柳が設計した建物だけに、門を存分に楽しめる造りとなっています。母屋の核が2階の書斎です。家屋の中心にあって日当たりが抜群にいい。壁面の書棚も蔵書がぴったりと収まる寸法で作られています。

壇蜜:辞書の『辞海』が時代を感じさせます。執筆や調べ物など、この書斎で長く過ごされたのですね。

山下:木工の美を追究した黒田辰秋の机など好きなものに囲まれた、居心地のいい空間だったのでしょう。

壇蜜:1階にはピアノが置かれた部屋もあります。

山下:柳宗悦の妻・兼子の音楽室です。彼女は日本を代表する声楽家で演奏活動も盛んに行なっていました。

壇蜜:室内に貼られた音楽会のプログラムを見ると独唱で出演されていますね。

山下:大正15年の音楽会で木喰仏の調査資金を募るための催しでした。民藝の研究と蒐集は兼子と二人三脚の賜でもあったのです。

【プロフィール】
山下裕二(やました・ゆうじ)/1958年生まれ。明治学院大学教授。美術史家。『日本美術全集』(全20巻、小学館刊)監修を務める、日本美術応援団団長。

壇蜜(だん・みつ)/1980年生まれ。タレント。執筆、芝居、バラエティほか幅広く活躍。近著に『三十路女は分が悪い』(中央公論新社刊)。

●日本民藝館
【開館時間】10時~17時(最終入館は閉館30分前まで)
【休館日】月曜(祝日の場合は開館し、翌平日が休館)、年末年始、その他臨時休館あり/西館(旧柳宗悦邸)公開日会期中の第2水曜・土曜、第3水曜・土曜(10時~16時半、最終入館は閉館30分前まで)
【入館料】一般1200円
【住所】東京都目黒区駒場4-3-33 ※開館情報はHPにて要確認

撮影/太田真三 取材・文/渡部美也

※週刊ポスト2021年7月2日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

タイと国境を接し、特殊詐欺の拠点があるとされるカンボジア北西部ポイペト。カンボジア、ミャンマー、タイ国境地帯に特殊詐欺の拠点が複数、あるとみられている(時事通信フォト)
《カンボジアで拘束》特殊詐欺Gの首謀者「関東連合元メンバー」が実質オーナーを務めていた日本食レストランの実態「詐欺Gのスタッフ向けの弁当販売で経営…」の証言
NEWSポストセブン
大谷と真美子さんの「冬のホーム」が観光地化の危機
《ベイビーが誕生した大谷翔平・真美子さんの“癒しの場所”が…》ハワイの25億円リゾート別荘が早くも“観光地化”する危機
NEWSポストセブン
まさか自分が特殊詐欺電話に騙されることになるとは(イメージ)
《劇場型の特殊詐欺で深刻な風評被害》実在の団体名を騙り「逮捕を50万円で救済」する手口 団体は「勝手に詐欺に名前を使われて」解散に追い込まれる
NEWSポストセブン
戸郷翔征の不調の原因は?(時事通信フォト)
巨人・戸郷翔征がまさかの二軍落ち、大乱調の原因はどこにあるのか?「大瀬良式カットボール習得」「投球テンポの変化」の影響を指摘する声も
週刊ポスト
公然わいせつで摘発された大阪のストリップ「東洋ショー劇場」が営業再開(右・Instagramより)
《大阪万博・浄化作戦の裏で…》摘発されたストリップ「天満東洋ショー劇場」が“はいてないように見えるパンツ”で対策 地元は「ストリップは芸術。『劇場を守る会』結成」
NEWSポストセブン
なんだかんだ言って「透明感」がある女優たち
沢尻エリカ、安達祐実、鈴木保奈美、そして広末涼子…いろいろなことがあっても、なんだかんだ言って「透明感」がある女優たち
女性セブン
同僚に薬物を持ったとして元琉球放送アナウンサーの大坪彩織被告が逮捕された(時事通信フォト/HPより(現在は削除済み)
同僚アナに薬を盛った沖縄の大坪彩織元アナ(24)の“執念深い犯行” 地元メディア関係者が「“ちむひじるぅ(冷たい)”なん じゃないか」と呟いたワケ《傷害罪で起訴》
NEWSポストセブン
過去の大谷翔平のバッティングデータを分析(時事通信フォト)
《ホームランは出ているけど…》大谷翔平のバッティングデータから浮かび上がる不安要素 「打球速度の減速」は“長尺バット”の影響か
週刊ポスト
電動キックボードの違反を取り締まる警察官(時事通信フォト)
《電動キックボード普及でルール違反が横行》都内の路線バス運転手が”加害者となる恐怖”を告白「渋滞をすり抜け、”バスに当て逃げ”なんて日常的に起きている」
NEWSポストセブン
16日の早朝に処分保留で釈放された広末涼子
《逮捕に感謝の声も出る》広末涼子は看護師に“蹴り”などの暴力 いま医療現場で増えている「ペイハラ」の深刻実態「酒飲んで大暴れ」「治療費踏み倒し」も
NEWSポストセブン
中村七之助の熱愛が発覚
《結婚願望ナシの中村七之助がゴールイン》ナンバーワン元芸妓との入籍を決断した背景に“実母の終活”
NEWSポストセブン
松永拓也さん、真菜さん、莉子ちゃん。家族3人が笑顔で過ごしていた日々は戻らない。
【七回忌インタビュー】池袋暴走事故遺族・松永拓也さん。「3人で住んでいた部屋を改装し一歩ずつ」事故から6年経った現在地
NEWSポストセブン