雨降りが続くと、気分転換の散歩もままならない。江戸の浮世絵に描かれた名所を行くことで、“歴史探訪東京さんぽ”を楽しもう。
初代歌川広重の『東都名所 日本橋之白雨』(1932〈天保3〉年)は、五街道の起点として知られる日本橋を中心に、右奥には江戸城、中央奥には富士山が描かれる。日本橋と江戸城、富士山の3点は当時流行の構図で、同様のモチーフで描かれる作品は数多い。
「雨の日に富士山は見られないと思いますが(笑い)、流行に合わせて描かれたものでしょう。白雨とはにわか雨のことで、目の前が白くなるほど激しい夕立を指します。雨の描き方が非常に複雑で、直線を交差させているのは、風景とは別に、雨のための版木を用いるなど、非常に複雑な工程を経ています」(岡田美術館・小林忠館長)
日本橋は、江戸幕府を開いた徳川家康によって架けられた橋で、五街道の起点。現在も橋に掲げられている「日本橋」の揮毫は、幕府最後の将軍・徳川慶喜によるものだ。その日本橋の袂にある日本国道路元標は、東海道や中山道など五街道の起点であることを示したもので、モニュメントは国の重要文化財に指定されている。その日本橋からほど近い日本銀行本店本館は、建築家・辰野金吾によって1896年に建てられた。1923年の関東大震災にも耐え、100年以上の歴史を今に伝えている。
※週刊ポスト2021年7月2日号