「ちあきなおみは、活動を休止してからベストアルバムが発売され、再び人気が出た稀有な歌手だと思います」と語るのは、ジャーナリストの石田伸也さん。
「彼女は山口百恵のようにコンサートでマイクを置いて引退したわけではありません。国民葬のような形で見送られた美空ひばりとも違います。
ちあきなおみは、別れも告げずに忽然と芸能界から消えてしまった。これは、日本レコード大賞を受賞し、『NHK紅白歌合戦(以下、紅白)』に出場した歌手としては珍しい。
でも、そのぶんミステリアスな存在となり、『彼女の歌をもっと聴きたい』と熱望する人が後を絶たないのだと思います」(石田さん・以下同)
2019年に発売されたコンセプトアルバム『微吟』の売り上げは3万5000枚を超え、CDが売れないといわれて久しい昨今、異例のヒットを記録している。
「彼女の魅力は卓越した歌声と表現力。ひとたび歌い出すと、その歌で描かれる情景が目に浮かび、まるで映画を見ているかのようにその世界にどっぷりと浸れる。唯一無二と言っていいでしょう」
その表現力はどのようにして磨かれていたのか。
「喝采」歌の世界を演じきる
ちあきなおみの代表曲といえば、1972年にヒットした『喝采』が思い浮かぶ。吉田旺さん(80才)が作詞し、中村泰士さん(享年81)が作曲を担当したこのドラマチックな曲を、情感たっぷりに歌い上げ、発売わずか3か月でその年の日本レコード大賞を受賞した。受賞後に涙をこらえながら歌う彼女の姿は印象的だった。
幼少時代にタップダンスを習い、その後、米軍キャンプを回って踊る仕事を始め、13才で歌手活動をスタートさせた彼女の歌は、どれもその人生を彷彿とさせるものだ。
「当時の彼女は、私たちの思惑とは少し違ったこだわりを持っていました」
そう語るのは、活動休止前の最後のマネジャーを務めた古賀慎一郎さんだ。