映画史・時代劇研究家の春日太一氏による、週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、俳優・村上弘明が、NHK大河ドラマで藤原清衡、明智光秀、柳沢吉保を演じたことついて語った言葉を紹介する。
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村上弘明は一九九三年、NHK大河ドラマ『炎立つ』全三部構成の第二部に主演。「後三年の役」に勝利し奥州に独自の文化と勢力を築く藤原清衡を演じた。
「僕にとって格別の役でした。当時、大河ドラマに主演することは一つのステータスだったようですが、そんなことより清衡というのは僕の故郷・岩手の最大の偉人であり英雄なわけです。それだけに非常にプレッシャーはありました。下手は打てないという想いでしたね。
でも、源頼朝に焼却されたりして、資料は全く残っていない。ですから、ロケの合間に清衡が眠る中尊寺金色堂に行ってお祈りしていました。
清衡が残した供養願文には、『戦で命を落とした人々、敵味方関係なく生きとし生きるもの全てを供養す』とあります。戦で妻や子、多くの仲間を亡くした清衡だからこそ争いのない平和な世を願った──その切なる想いを役に投影したつもりです」
九六年の大河ドラマ『秀吉』では明智光秀役で出演、悲劇的な人物として演じている。
「僕はその前の年、『メナムは眠らず』というNHKドラマの撮影でタイに行っていました。
このドラマは前後編あったのですが、その前編のディレクターが『秀吉』の演出陣の一人でした。『光秀をやってほしい。僕は日本に明日帰るから、それまでに読んでおいてもらえる?』と渡されたのが、『秀吉』のシノプシス(あらすじ書き)でした。
シノプシスといっても、一話が五、六ページあって、それが三十話分もある。それを一晩で読めと。僕はその翌日も早朝から撮影があったのですが、それでも眠い目をこすりながら読みました。そしたらなかなか面白い役なんです。
それからひと月後、東京のスタジオでの撮影の合間、NHKの別の番組のディレクターが私の楽屋に現われ、『光秀やるんだって? やめた方がいいぞ。光秀といったら逆賊だ。お前がやるべき役じゃない』と言ってきたんです。
それでも後日、『秀吉』のディレクターやプロデューサーが席を設けてくれて、『今回の光秀は逆賊のイメージを払拭したい。これは番組のテーマでもある。だから村上さんにやってほしい』と。そこまで言ってくれるなら、と出ることにしました。
光秀は悲愴感漂う役でしたね。そういう役はあまりやっていませんでした。強い役、ヒーロー然とした役ばかりで。それだけに、役者としていい経験ができたと思っています」