新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大を防ぐために、飲食店は大声で談笑しやすくなる種類の提供を止めたり、営業時間を短くするよう求められてきた。それに逆らって深夜まで営業し酒を提供することは「闇営業」と咎め立てされたものだが、東京都の休業命令に反論する飲食店チェーンが現れるなど、飲食業界内部で捉え方に変化が出てきている。緊急事態宣言が終了しても「飲酒は19時、2人まで」など制限の要請は続く見込みだが、今後はどう受け止められるのか。ライターの森鷹久氏が、「闇営業」をめぐる奇妙な圧力についてレポートする。
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新型コロナウイルス感染者数が全国的に減少傾向にある中、緊急事態宣言発令下の地域でも、行政の要請に従わない形で「闇営業」に踏み切る飲食店が増えた。その事実はこれまで何度も報じられてきたが、飲食店の実情を聞くと、反発から闇営業というだけでは語りきれない様子が見えてきた。ここにきて、予想外の「外圧」に悩む飲食店関係者が現れ始めたのである。
「私はきちっと政府や都の指導に従っているだけ。感染者をこれ以上出さない、ということが一番重要なはずでしょう?」
東京都内で複数の居酒屋経営する森永祐作さん(仮名・40代)は、コロナ禍以降、経営状態が逼迫するなか、「自分の店で感染者を出したくない」という強い思いから、時短営業や休業を受け入れてきた。しかし、2020年秋頃には、自身の店の近隣店舗が闇営業を再開。多くの客が訪れているのを見て、固い意思が揺らぎそうになったこともあったが、今日まで「闇営業」と後ろ指を刺されるようなことは一切やっていないと胸を張る。
しかし、周囲の複数の店が闇営業を始めた2021年5月以降、飲食店経営者仲間から驚くべき暴言を吐かれたと訴える。
「お前『コロナ脳』か、と闇営業している飲食店仲間から揶揄されるようになりました。彼らの中には感染者数が減ったことや、闇営業をしていても客から感染者がほとんど出ていない、という自信があるようで、休業や時短営業を継続している店主が気に食わないのです」(森永さん)
ある旧知の飲食店店主などは、SNS上で森永さんのような自粛組を「いまだに政府の嘘を信じるバカ」と名指しで中傷。そこに寄せられた同業者のコメントには「コロナは風邪」といった書き込みもあり、主張の違いはあっても同業の仲間だという思いも裏切られ、もはや誰を信じていいかわからないほど人間不信に陥っているという。