6月4日、日本から無償提供されたアストラゼネカ製ワクチン124万回分が台湾に到着した。コロナ対策では「優等生」と称えられた台湾だが、5月に入り感染が急拡大するなかでワクチン確保が進まず、日本に援助を求めたという。蔡英文総統はツイッターで「言葉では言い表わせないほど感謝しています」と日本語で投稿した。
日本と台湾の親密さが示された一方、中台の緊張関係も改めて浮き彫りになった。
蔡総統は5月下旬、「台湾が独ビオンテックからワクチンを調達するのを、中国が妨害している」と非難声明を出した。台湾問題に詳しいジャーナリストの野嶋剛氏が語る。
「中国は台湾に『中国製ワクチンを使えばよい』と言っていますが、台湾は交渉過程で予想される中国からの統一工作を懸念し、応じない方針です。現に中国は、ワクチン外交により中南米のパラグアイとホンジュラスに台湾との断交・中国との国交樹立などを求める圧力をかけたとされます」
コロナ禍以前にも、中国は感染症や防疫に関して台湾に幾度となく“嫌がらせ”を続けてきた。
「WHO(世界保健機関)に非加盟の台湾は、2003年のSARS流行時に情報提供が得られず多数の死者を出しました。台湾はその後WHOへのオブザーバー参加を求めましたが、親中派として知られる馬英九・前政権時代を除き、中国からの横槍で実現していません」
助け船を出した日本にも嫌がらせはあり得るのか。中国に詳しい評論家の宮崎正弘氏は指摘する。
「6月10日に成立・即日施行された中国の『反外国制裁法』に注目です。これは外国から不当な制裁や内政干渉を受けた場合、相手国の人や企業に『入国拒否や国外追放』、『中国国内の財産凍結』、『全ての中国企業との取引禁止』などの罰則を科すというもの。今回のワクチン提供が、今後、中国国内の日本人駐在員や日系企業に『反外国制裁法』を適用する呼び水になる恐れがある」