コロナ禍により1年延期となった東京五輪。それぞれに複雑な思いを抱きながら過ごしてきたであろうアスリートたちの中でも、とりわけコロナの混乱に巻き込まれたのは、本業と選手生活を両立しながら五輪を目指した“二足のわらじ”アスリートたちではないだろうか。そんな選手たちの苦闘と葛藤の日々を取材した。
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自転車マウンテンバイク(MTB)の今井美穂(34)は、アスリートと群馬県の公立小学校教員という“二足のわらじ”で、五輪ロードを走ってきた。昨年6月、日本自転車競技連盟はマウンテンバイク競技の代表に今井を内定し、彼女は公務員オリンピアンとなった。
「東京五輪のコースは岩場を降りるロックセッションがあって、世界的に見ても見せ場が多い。マウンテンバイクをご存じない方も、楽しんでいただけると思います」
昨年は代表選考レースに専念・集中できるよう、学校と県の教育委員会の配慮から担任を外れ、算数などの教科を複数の学年に教えていた。だが、東京五輪が1年延期となって迎えた今年度は、県内の教員数の問題などもあって調整がつかず、4年生の担任を務めることに。
「ただ、始業式の3日後に合宿に向かってしまって……。5月に1週間だけ授業ができたんですが、すぐにまた合宿となった。東京五輪が終わるまでの1学期は補助の先生にお願いして子供たちを教えてもらっています」
とはいえこれほど手厚い支援を受けられるのも、学校や教育委員会が今井の熱意に打たれたからだろう。2019年度を前に、「東京五輪を目指したい」と今井は学校に告げた。
「宣言したからには、夢を叶えるという過程を子供たちに見てもらって、夢が現実になるということを示したいと思いました。逃げられない状況を作ることで、自分自身、覚悟を決めました」
今井は小学生の頃から陸上に励み、高校と東京女子体育大学時代は7種競技の選手だった。シドニー五輪女子マラソン金メダリストの高橋尚子に憧れ、オリンピックの舞台に立つことを夢見る少女だったが、陸上競技では「とても日本のトップに立つような選手にはなれなかった。現実は甘くなかった」と振り返る。
男子の10種競技同様、女子の7種競技はクイーンオブアスリートを決める競技で、総合的な運動能力が試される。この経験が、のちに活きてゆく。