これでようやく一息つける。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種が具体的になったとき、これまで辛抱していた生活から抜け出せると希望を見た人も多いだろう。だが実際には、ワクチン接種をしたことでコロナへの恐れが増した人もいるようだ。ライターの森鷹久氏が、ワクチン接種によって生まれた新たな分断に直面させられている人たちの戸惑いをレポートする。
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「ほぼ2年会えていませんでしたので、今年の夏こそは、と子供たちも楽しみにしていたんです。両親はネットニュースなどでも取り上げられるような陰謀論に影響されている高齢者、というわけではないと思っていたので、ショックといえばショックでした」
神奈川県在住の会社員・末次純さん(仮名・40代)は、間も無くやってくる夏休みに、妻と子供二人を連れて九州の実家へ帰省を考えていた。新型コロナウイルスの新規感染者は減少傾向にあり、ワクチン接種も順調に進んでいる。念の為、帰省直前にPCR検査を受ける手筈も整え、首を長くして待つ「じいじとばあば」に会いに行こう、と子供達も喜んでいた。しかし……。
「両親は65歳以上で、自治体による1回目の接種を受けました。受ける前までは、私たちの感染リスクが減る、と喜んでいたんですが、接種後の様子がどうもおかしい。何かあったのかと聞いてみると、ワクチン接種がまだの私や子供たちが来るのはちょっと怖いと言い出して。いや、気持ちはわかります。でも、接種前は『なんとか孫に会いたい』と言っていたので、なんか残念というか、表現できないモヤモヤが残ってしまった」(末次さん)
確かに、ワクチン接種したからといって100%、コロナに感染しなくなるわけではない。だが感染しにくくなり、万が一、感染しても重症化しにくくなるのだから、今までよりも人と会いやすくなるはずと周囲も期待していたのだ。ところが、ワクチンを接種したことで、接種していない人たちの高リスクが、接種済みの自分たちに悪影響を及ぼすのではと怖くなってしまったということなのだ。
コロナ禍における世界では、さまざまな場面で考え方の相違に端を発する「分断」らしき対立構造が明るみに出ている。若者は感染しても無症状で高齢者にうつす危険性が高い、だから若者は外に出るな、なんていう極端な論調などはその代表例だろうが、ワクチンを打った打たないでも、やはり「分断」とでも呼ぶべき何かが発生しているようなのである。