ライフ

鈴木涼美氏が考察「許されるおじさん、許されないおじさん」

「おじさん」と共存したいと語る作家の鈴木涼美氏

「おじさん」と共存したいと語る作家の鈴木涼美氏

 森喜朗氏の女性蔑視発言や「オリンピッグ」問題……それでも日本社会を動かしている「おじさん」たち。「おじさん」が権力を握っている限り、「おじさん」の問題は日本社会の問題であり、女性の問題でもある。作家の鈴木涼美さんは新著『ニッポンのおじさん』(角川書店)で、ビートたけし、岡村隆史、星野源、木村拓哉、堀江貴文、菅義偉(敬称略)……はじめ、各界の「おじさん」たちの生態について考察した。東大院生、AV女優、新聞記者、文筆家など、幅広い活動と仕事を通して世の「おじさん」たちを観察してきた鈴木さんから見た、愛されるおじさんと嫌われるおじさん、許されるおじさんと許されないおじさんとは。ニッポンの「おじさん」は変わったのか。おじさんの現在地と、彼らを取りまく社会状況について、鈴木さんに聞いた。

 * * *

理解不能な「おじさん」と共存するために

──中年男性を意味する「おじさん」に、鈴木さんはどのような感情を持っていますか。

鈴木:私にとっておじさんは恋愛対象であると同時に、日本の組織のトップは悲しいかな、ほとんどおじさんなので、仕事をする上でも、おじさんと関わらずには生きていけません。たとえば本を出すのだって、おじさんのサインをもらわないといけない。だからおじさんに愛されたいと思うこともあれば、懐柔したいと思うこともあるし、イラッとすることも負かしたいと思うこともあるけれど、いずれにしろ、共存しなければならないと思っています。

 昨今、おじさんの加害性やおじさんによる被害について、女性たちが言葉にするようになりました。それは尊い行為だと思っていますが、社会構造を変えていくのと同じくらい、今の社会でなんとか生き抜いていくのも大事で、私はどちらかというと生き抜くための表現に重きを置いているのだと思います。だからおじさんを批判しつつも、最終的にはどこかで許し合わなければならないと思う。おじさんへのクレームが目立つ社会にはなったけれど、多くの女性が別におじさんを駆逐したいと思っているわけではないので、おじさんにもあまり真面目に卑屈になりすぎないで欲しいと考えます。

──そのためには「おじさん」を理解することが第一歩になるということですね。

鈴木:女の私がおじさんの楽しみや苦しみを理解することは根本的には不可能だと思っています。身体的に密着することはあるけれど、女であることで何かしら共通点のある女同士や男を恋愛対象とするという意味でのゲイの男性との関係に比べて、おじさんと私には共通点が少ない。たとえばAVにも女から見たらすごくヘンな設定や女性を馬鹿にした設定があります。ただ、そういう理解不能性に対して、拒絶したり、大真面目に異議を申し立てる表現もあると思うんですが、私の場合は、ちょっとした嘲笑やからかいを含めて茶化す視座を持っていたい。悪口は言うけど大真面目に怒ってないよ、だけど、自分たちがヘンなことは自覚してね、という感じですかね。

──この時代に、あえて「男性」「女性」に分けて論じることの意味をどう考えていらっしゃいますか。

鈴木:私はおじさんを見るとき、その人の思想や作品、人間としての魅力も見るけれど、オスとしての魅力も見るわけです。女性を馬鹿にしない見識のあるおじさんを尊敬はしても、セックスしたいかは別、みたいに。人は「正しい」を愛するとは限りません。間違ってるけど欲情する、ということがあり得るわけです。これはヘテロセクシャルの同性同士の批評だと入りえない視点で、一つ、人を見る視点が増えるというか、視点がズレるんですね。性差に敏感なこの時代、人間を男女に分けることにそんなに意味がないと感じる人がいるのはわかりますし、そういう分け方にある種の有害さがあることは自覚していますが、性愛の対象について書くと、そうでない場合に比べて切り口が増えるし、ゆるみが出る。それが面白いと思っています。

 というのは最近、人を善か悪かで振り分ける振る舞いが目立つと感じるからですね。それは有効なこともある一方で、それだけと、窮屈で息が詰まります。人間ってもう少し複雑でいろんな顔を持って生きていますから。

関連キーワード

関連記事

トピックス

フジテレビの第三者委員会からヒアリングの打診があった石橋貴明
《離婚後も“石橋姓”名乗る鈴木保奈美の沈黙》セクハラ騒動の石橋貴明と“スープも冷めない距離”で生活する元夫婦の関係「何とかなるさっていう人でいたい」
NEWSポストセブン
原監督も心配する中居正広(写真は2021年)
「落ち着くことはないでしょ」中居正広氏の実兄が現在の心境を吐露「全く連絡取っていない」「そっとしておくのも優しさ」
NEWSポストセブン
休養を発表した中居正広
【独自】「ありえないよ…」中居正広氏の実兄が激白した“性暴力認定”への思い「母親が電話しても連絡が返ってこない」
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
〈山口組分裂抗争終結〉「体調が悪かろうが這ってでも来い」直参組長への“異例の招集状” 司忍組長を悩ます「七代目体制」
NEWSポストセブン
筑波大学の入学式に出席された悠仁さま(時事通信フォト)
「うなぎパイ渡せた!」悠仁さまに筑波大の学生らが“地元銘菓を渡すブーム”…実際に手渡された食品はどうなる
NEWSポストセブン
新年度も順調に仕事を増やし続けている森香澄
《各方面から引っ張りだこ》森香澄、“あざとかわいい”だけじゃない「実はすごいアナウンス力」、「SNSの使い方はピカイチ」
NEWSポストセブン
4月7日、天皇皇后両陛下は硫黄島へと出発された(撮影/JMPA)
雅子さま、大阪・沖縄・広島・長崎・モンゴルへのご公務で多忙な日々が続く 重大な懸念事項は、硫黄島訪問の強行日程の影響
女性セブン
女優の広末涼子容疑者が傷害容疑で現行犯逮捕された(左/時事通信フォト)
広末涼子の父親「話すことはありません…」 ふるさと・高知の地元住民からも落胆の声「朝ドラ『あんぱん』に水を差された」
NEWSポストセブン
SNSで出回る“セルフレジに硬貨を大量投入”動画(写真/イメージマート)
《コンビニ・イオン・スシローなどで撮影》セルフレジに“硬貨を大量投入”動画がSNSで出回る 悪ふざけなら「偽計業務妨害罪に該当する可能性がある」と弁護士が指摘 
NEWSポストセブン
筑波大学の入学式に出席された悠仁さま(撮影/JMPA)
悠仁さま、入学式で隣にいた新入生は筑附の同級生 少なくとも2人のクラスメートが筑波大学に進学、信頼できるご学友とともに充実した大学生活へ
女性セブン
都内にある広末涼子容疑者の自宅に、静岡県警の家宅捜査が入った
《ガサ入れでミカン箱大の押収品》広末涼子の同乗マネが重傷で捜索令状は「危険運転致傷」容疑…「懲役12年以下」の重い罰則も 広末は事故前に“多くの処方薬を服用”と発信
NEWSポストセブン
人気のお花見スポット・代々木公園で花見客を困らせる出来事が…(左/時事通信フォト)
《代々木公園花見“トイレ男女比問題”》「男性だけずるい」「40分近くも待たされました…」と女性客から怒りの声 運営事務所は「男性は立小便をされてしまう等の課題」
NEWSポストセブン