緊急事態宣言が解除され、繁華街にも若干だが賑わいが戻りつつある。東京・銀座が拠点だという都内のタクシー会社勤務・森下信一さん(仮名・50代)は多少の安堵を見せつつも、コロナ禍の終わりと同時に「仕事を失うのではないか」という危機感を胸に秘めていると明かす。
「コロナで数百人のドライバーが会社を辞めました。勤務しても客がいないから歩合給がつかず、生活できないんです。中小規模のタクシー会社さんはつぶれてしまったところもあるし、比較してみると我々はまだマシかな、とも思えたのですが」(森下さん)コロナ禍によってタクシー業界は大ダメージを受け、森下さんの手取りも月によっては、コロナ禍前の半分以下に落ち込んだ。人員の圧縮や経営縮小を迫られた事業者も多く、同僚たちが会社を後にしていくのを眺めながらも「仕方がない」と諦めていた。ところが、昨年の秋頃、会社が求人を出していることに気がついたのである。
「客足が戻る気配もないしなぜ、と思っていたのですが、求人広告には寮完備でタクシードライバーに必要な二種免許取得も費用は会社負担、入社祝い金が20万円も出る、と書いてあったのです」(森下さん)
そこには「月収50万円以上も可能」と書いてあったが、これについてはあくまでも「可能」なのであり、コロナ禍ではありえない想定だったと笑うが、求人広告の過剰な表現はいつものこと。気になったのは、求人広告に掲載されていた写真が若い男女だったことだ。中高年のベテランドライバーは辞めざるをえないのに、若い社員は積極的に採用する、という会社の方針を感じ取ったという。
「大手さんでも新卒でドライバーを取っているし、お客さんだってジジイの運転手よりヤングがよいでしょうけど、あからさまに年寄りを追い出すのかと思いましてね。すぐ、うちの会社にも若いのが何人も入ってきて、ベテランの勤務機会が減る、なんてこともありました」(森下さん)