全額自己負担
糖尿病治療のために処方される「SGLT2阻害薬」がそれだ。
「『SGLT2阻害薬』は2014年に登場した糖尿病の最新治療薬です。従来の薬が膵臓に作用してインスリンの分泌を促したのに対し、この薬は腎臓に作用して、ブドウ糖を尿に排出させて血糖値を下げるタイプです。
当初は糖尿病治療薬としてのみ処方されていましたが、塩分も排出する作用があると分かりました。そのため2020年11月、塩分の過剰摂取が原因の一つとされる心不全の治療目的での処方も認められています」(朝長医師)
保険診療でこの薬を処方できるのは糖尿病か心不全の患者に限られる。そんな薬を、病気になってもいないのに処方してもらうことは可能なのか、そもそも体に悪影響はないのか。銀座薬局代表で薬剤師の長澤育弘氏に訊くと、意外な答えが返ってきた。
「実は私も最近になって、同じ薬を毎日飲んでいます」
現在35歳の長澤氏は、体重が100kgを超える。糖尿病は発症していないが、将来的な生活習慣病のリスクを防ぐため、糖尿病治療薬を服用し始めたという。
「トレーニングをしても全然体重が落ちないので、糖尿病治療薬を飲み始めました。毎朝の食事の前に2錠ずつ飲んでいたら、最初の1か月で体重が5kg減りました。
糖尿病は内臓脂肪がインスリンの効き目を低下させることで発症するので、体重の減少は予防効果が期待できます。そもそも肥満は生活習慣病全般のリスク要因なので、しばらくはこの薬を飲み続けるつもりです」(長澤氏)
堀江氏や長澤氏のように予防目的でこの薬を処方してもらうには、「自費診療(自由診療)」を受ける必要がある。堀江氏も著書内で、自費診療で薬を得ていると述べている。
「病気に罹患していない人がこの薬を処方してもらうことはできません。ですが自費診療のクリニックであれば、将来の『予防のため』という理由で処方してもらうことは可能です」(長澤氏)
自費診療は通常「3割負担」の処方費用が、「全額自己負担」となる。
「この薬の売価は1錠300円程度なので、たとえば1日1錠服用するとすればひと月で約9000円となります」(長澤氏)
医療経済研究機構の調査では、糖尿病患者の平均的な医療費は年間24.7万円(月額約6000円)とされ、透析治療を受ける場合はさらに月1万円がかかる。将来もし糖尿病を患った場合にかかる負担との比較は微妙なところだ。