早朝に一カ所に集まり、様々なものを路上販売する「朝市」のなかでも、石川県輪島市の朝市は地元の人たちの台所を支えるだけでなく、全国から観光客が訪れる名所でもある。
ノドグロ、サザエ、サバ、アジ、アマエビ……。能登半島北部・輪島港で水揚げされたばかりの鮮度抜群の魚をはじめ、名物の蒸しアワビや天然フグの一夜干しなどが揃い、「安くするから、こうてって」という売り子の元気な声が響く輪島朝市。起源は平安時代にまで遡り、1200年の歴史を誇る。朝市から程近い鳳至住吉神社に残る大同2(807)年の文献にも境内で物々交換の市が開かれていたと記録されている。約360メートル続く朝市通りには午前8時~12時に露店が並ぶ。毎月第2・第4水曜、1月1日~3日が定休日だ。
露店の売り子の大半は、地元の海女や農家などの女性。人情味あふれる売り子との会話は楽しく、価格は表示されているものの、おまけをつけてくれたり、安くしてくれたりとサービス精神も旺盛だ。店には蒸した大ぶりのクロアワビなどが並び、試食をさせてくれる。蒸しアワビを昆布締めにした今年の新作は、昆布の旨味がしみて至福の美味しさ。そして、輪島の港で水揚げされたフグやサバなどを樽で長期間、糠漬けにした「いしる(魚醤)」は旨味が凝縮され、酒もご飯も進む。
また、朝市通り沿いの飲食店「輪島朝市横丁」では、朝市の露店で買った魚介を持ち込み、七輪と炭火で焼いて楽しめる(炭火焼きレンタルセット1人330円)。やはり朝市通りに面する1912(大正元)年創業の蔵元「日吉酒造店」では、能登杜氏が醸した約20種類を無料で試飲できる。
輪島市は2011年から7回、天然フグの漁獲量が日本1位に輝いており、干物もお値打ち価格で購入できる。港で水揚げされた天然フグを手軽に楽しめる「ふぐ2貫握り」(300円)は輪島朝市の名物でもある。新鮮な能登の殻付きカキはその場で焼いてもらえる。7月からは輪島沖にある舳倉島(へぐらじま)のアワビ漁が解禁となり、海女が素潜りで獲る名物のアワビが旬を迎える。
撮影/太田真三 取材・文/上田千春
※週刊ポスト2021年7月9日号