都内の新規感染者が再び急増し、感染第5波が危惧されるなかで東京五輪の開催が迫っている。そうした折も折、西村泰彦・宮内庁長官が定例会見で放った「天皇陛下は五輪開催が感染拡大に繋がらないかご懸念されていると拝察している」という異例の発言が大きな波紋を広げている。
東京五輪の「有観客開催」を決めた菅義偉・首相には“青天の霹靂(へきれき)”だったようだ。すぐに「(西村長官)本人の見解を述べたと理解している」と語り、“天皇の懸念ではない”と打ち消そうとしたが、その言い分には無理がある。
菅首相は長官発言の2日前、皇居で天皇に国内外の諸情勢について報告する「内奏」を行なった。5者協議で「上限1万人」の有観客開催が決定された直後であり、「菅総理が、オリンピックの新型コロナウイルス対策などについて説明したものとみられます」(日テレNEWS24)と報じられた。皇室ジャーナリストの久能靖氏が語る。
「天皇陛下は『国民に寄り添う』ことをとても大切にされており、即位式でもそう述べられた。いま国民は五輪開催に不安を持っています。西村長官の言葉は、そうした国民の気持ちに寄り添い、対策を十分にして万全の形でやってほしいという陛下のお気持ちの現われだと思います。
加えて、陛下は東京五輪・パラリンピックの大会名誉総裁として開会宣言を行なう立場です。五輪の責任者の1人として国民の感染拡大に配慮しなければならない立場でもある。西村長官は菅首相の内奏でも陛下のご懸念が解消されていないと判断したから異例の発言になったのではないでしょうか」
西村発言は、菅政権と皇室の五輪開催をめぐる距離感を露呈したのだ。
「菅総理は安倍政権の官房長官時代から上皇の生前退位と御代替わりの実務を指揮し、皇室に恩を売ったと思い込んでいる。だから今度は政権の命運をかけた五輪の成功に皇室が協力してくれると考え、内奏では安心安全だけを強調したはず。陛下は総理のそんな姿勢に違和感を覚えた可能性がある」(自民党ベテラン議員)
※週刊ポスト2021年7月16・23日号