コロナ禍で広まったフードデリバリーサービス。ドでかいバッグを背負って縦横無尽に街中を駆け巡る自転車配達員たちの姿は、都市部では日常の一部となりつつある。こうしたなか、自らウーバーイーツの配達員として働いた青柳拓監督(28)による、全編スマートフォンとGoPro(小型カメラ)で撮影したセルフドキュメンタリー映画『東京自転車節』が、7月10日に公開される。
自身もコロナ禍の仕事減少に伴ってウーバーイーツの配達員として働いた経験を持つ、ライターの西谷格氏が青柳監督の今作への想いをレポートする。
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1993年、山梨県で生まれた青柳監督は、日本映画大学(神奈川県川崎市)を卒業後、2017年にドキュメンタリー映画『ひいくんのあるく町』を発表。その後は故郷で運転代行のアルバイトなどをしながら、次回作に取り掛かるチャンスを窺っていたという。
「就職を考えたこともありましたが、どうしても、もう1本ドキュメンタリー映画を作りたかったんです」(青柳監督、以下「」内同)
当初は奨学金550万円を返済するドキュメンタリーを企画し、マグロ漁船で働くことを決意。未経験でも働かせてもらえるマグロ漁師の仕事を見つけて話を進めていたが、実現には至らなかった。運転代行の仕事も途絶えて困窮していた時に映画業界の先輩から勧められたのがウーバーイーツの配達員だった。「題材として面白い」と考えた青柳監督は、配達員として働き始めると同時に記録としての撮影も開始した。
「撮影しているという意識はもちろんありましたが、『配達員として稼ぐ』という軸足はブレないようにしました。実際、貯金がゼロに近かったので、何とかして稼がないといけない状況だったんです」
ウーバーイーツから配達員用アプリ内で提示される目標は、ロールプレイングゲームに例えて「クエスト」と呼ばれる。作中、青柳氏は身も心も疲弊しながら、段々とクエストをこなしていくことに意義を見い出していく。
「クエストを攻略すると、ゲームのラスボスをクリアするような達成感がある。クリアして乗り越えたと思い込むことで、その先に進む足がかりが生まれると感じました」
目標達成に快感を覚えることは、ウーバーイーツの思うツボではないのか。私(筆者)もかつて配達員として働いた際、もうちょっと頑張ればプラス1000円、もっと頑張れば5000円という具合に絶妙な金額のクエストを提示され、ニンジンをぶら下げて走り続ける馬のような気分になったのを思い出す。努力が報われると言われれば聞こえは良いのだが、システム設計があまりに露骨で、つい無理をしてしまいそうになる。