「まさかうちが……」「熱海がこんなことになるなんて」──多くの人がそう口にするが、専門家によると「何十年も住み続けてきたが何も起こらなかったから大丈夫」といった経験則は通用しなくなっているという。雨の降り方が変わってきている昨今、日本での土砂災害は激増している。災害の引き金と、その予兆とは──。
7月3日に静岡県熱海市で発生した土石流災害で被害を受けた住宅は約130棟。9人の死亡が確認され、行方不明者は22人に上る。家を離れ、公共施設や旅館などに避難している人は580人以上。いまもなお、土砂に足をとられながら、警察や消防、自衛隊を含め約1100人態勢で救助活動を行っている(被害状況は7月8日時点)。
土石流が発生した地点に木造建築が多かったことも被害を大きくした一因だという。山口大学農学部教授で土砂災害を研究する山本晴彦さんがいう。
「木造建築物は、コンクリート造に比べると圧倒的に強度が低く、秒速10mを超えるような土砂が流れてきたらひとたまりもありません。今回、災害が起きた地域は地形的に急な勾配をしていて、土石流の勢いが衰えなかった。さらに、傾斜地の上方に木造住宅が多数あった。土石流は倒壊した家々をのみ込み、威力を増していきました」(山本さん)
土石流は雨脚が弱まったタイミングで発生した。“このくらいの雨なら大丈夫”という油断があったと、住民の斎藤一郎さん(仮名・61才)は語る。
「熱海は雨がよく降る場所なんですよ。今回の雨も、長く続くなとは思ったんですが、身の危険を感じるほどの豪雨ではありませんでした。それがまさか、こんなことになるなんて……」
7月1日から4日の午前10時頃までの雨量は積算で465mm。2019年の台風19号では、熱海から近い箱根町で48時間の間に1000mmを超える雨が降った。しかし、このときは土砂災害は発生していない。雨量は半分以下なのに、何が違うのか。前出の山本さんは、今回の降り方は、土石流や河川の氾濫で263名もの死者を出した2018年7月の西日本豪雨に似ていると指摘する。