いよいよ東京オリンピック・パラリンピック開幕が間近に迫っているが、アスリートたちを陰で支える職人たちの存在を忘れてはいけない。パラリンピックの車いすバスケで使用される競技用車いすにも凄い技術が隠されている。
もともと日常生活用の車いすを製造・販売していた松永製作所は、ユーザーからの要望を受け、2002年からスポーツ用車いすの製造・販売をスタートさせた。当初はテニスだけだったが、現在ではバスケットボールをはじめ、バドミントン、ソフトボール、フェンシングなど、多種類の競技用車いすを販売している。
同社で競技用車いすの設計・製造を行なう上野正雄さんは、2014年から車いすバスケットボール男子日本代表にメカニックとして参加。選手の操作の仕方を見ただけでも車いすの種類がわかるという。「特に曲がり方に注目すると違いが見えてきます」(上野さん)
練習や国際大会などで行動を共にし、「まるで友達のよう」だと語るほど強い信頼関係を構築すると、選手たちの要望に応えて競技用車いすを改良していった。
「同じ要望でも選手によって言い回しが異なるため、それぞれの人柄を知ることが車いすの改良では重要です。弊社の車いすの一番の強みはフレームの柔らかさとしなやかさです。通常よりも伸びの良いスピードが出るんですよ。地面もしっかりと捉えるので、操作性も高いです」(上野さん)
上野さんの今後も目標は「車いすの根本的な構造を変えたい。今は座ることが当たり前だけど、跨がるのもアリじゃないか」だ。
※週刊ポスト2021年7月16・23日号