ライフ

声優・あさのますみが「逝ってしまった」友人に伝えたかったこと

あさのますみさんが語る「逝ってしまった」君へ

あさのますみさんが語る「逝ってしまった」君へ

 コロナ禍で自殺者が増え続けている。警察庁の速報値によると、2021年5月の自殺者は全国で1745人。11か月連続で前の年を上回った。コロナ禍で多くの人が経済状況や家庭環境の変化などに悩みを抱え、精神的に追い詰められたことが背景にあるとみられる。

 自殺を選ぶ人の苦しみは計り知れないが、近しい人たちの後悔や心の痛みを抱えて生きてゆく苦しみの深さもまた、計り知れない。

 絵本作家で声優のあさのますみさんもそのひとりだ。青春を共に過ごし、20年以上の付き合いがあった大切な友人を自死という形で亡くしたあさのさんは、その経験を著書『逝ってしまった君へ』として上梓した。大切な誰かを自死によって突然失った人は、その痛みとどう向き合い、受け止めたのか――。

「彼の死を知らされたときは、まったく予想してなかったのでびっくりすることすらできなかった。“え? え? どういうこと?”と頭が真っ白になりました」

 タクシーで帰宅中のあさのさんに古い友人からのLINEメッセージが届いたのは2019年1月のこと。それは、友人として20年以上の付き合いがあり、はじめての恋人でもあった「彼」が鬱に苦しみ、自ら命を絶ったことを知らせるものだった。晴天の霹靂に大きな衝撃を受けたあさのさんはその翌日、彼から自身に寄せられた走り書きの遺書を目にした。

「親しかった友人数人に、それぞれメッセージを書き残していたんです。彼の筆跡がすごく懐かしくて、そこにある言葉や口調が彼の声で聞こえてきて、本当に亡くなっちゃったんだなあと思いました。一生懸命だけど、ちょっと迷ったり書き間違えたりしてぐちゃぐちゃになっているところもあり、すごく生々しかった。あの遺書を見て、彼が亡くなったという実感が少しずつ沸いてきました」(あさのさん・以下同)

 学生時代、経済状況に苦しんでいたあさのさんは、どんな時にも明るく前向きな彼が大きな心の支えだった。大学卒業後も連絡を取りあっていたが、一流企業に勤める彼の仕事がうまくいかず、自死のひと月前に心身の不調から鬱と診断されていたことは知らされていなかった。

「置いてけぼりにされてしまった、と思いました。もちろん悲しい気持ちはありましたが、同時に“なぜ相談もせず、一言も言わずに逝ってしまったんだ”と感じました。私が知ったときには、彼はもう二度と手が届かないところにいたわけで、その決断をする前にどうして言ってくれなかったんだって…。そんな理不尽な思いにとらわれて、どこにもぶつけられない憤りがありました」

 身内だけの告別式を終えたあさのさんは、仕事先では平静を装っていたものの、様々な思いが頭のなかを駆けめぐって心が不安定になり、気がつくと涙がこぼれていることもしばしばだった。それが遺された者を取り巻く現実だった。

 深い混乱が続くなかで、その状況を変えるきっかけになったのが「遺品整理」だ。

「“そんなこと、つらくてできない”という友人もいたけれど、私は参加してよかったと思っています。手を動かすことで気持ちが紛れるという理由もありますが、それ以上に精神的に弱っていたご家族だけにやらせるのは酷だという気持ちがあった。それに、遺品を整理することで彼の人生を振り返ることができました。ハッピーバースデーの文字をかたどったパーティ用のメガネや、くるくるとまとめられた靴下など、ささやかな物に彼が宿っている気がしました。最終的にそれらを捨てるのはつらい作業だったけど、悲しいという感情を素直に口にしながら、彼のお母さんとお姉さん、友人たちと一緒に遺品を整理することは、心の整理にもなりました」

関連キーワード

関連記事

トピックス

過去の大谷翔平のバッティングデータを分析(時事通信フォト)
《ホームランは出ているけど…》大谷翔平のバッティングデータから浮かび上がる不安要素 「打球速度の減速」は“長尺バット”の影響か
週刊ポスト
16日の早朝に処分保留で釈放された広末涼子
《逮捕に感謝の声も出る》広末涼子は看護師に“蹴り”などの暴力 いま医療現場で増えている「ペイハラ」の深刻実態「酒飲んで大暴れ」「治療費踏み倒し」も
NEWSポストセブン
初めて沖縄を訪問される愛子さま(2025年3月、神奈川・横浜市。撮影/JMPA)
【愛子さま、6月に初めての沖縄訪問】両陛下と宿泊を伴う公務での地方訪問は初 上皇ご夫妻が大事にされた“沖縄へ寄り添う姿勢”を令和に継承 
女性セブン
中村七之助の熱愛が発覚
《結婚願望ナシの中村七之助がゴールイン》ナンバーワン元芸妓との入籍を決断した背景に“実母の終活”
NEWSポストセブン
松永拓也さん、真菜さん、莉子ちゃん。家族3人が笑顔で過ごしていた日々は戻らない。
【七回忌インタビュー】池袋暴走事故遺族・松永拓也さん。「3人で住んでいた部屋を改装し一歩ずつ」事故から6年経った現在地
NEWSポストセブン
大阪・関西万博で天皇皇后両陛下を出迎えた女優の藤原紀香(2025年4月、大阪府・大阪市。撮影/JMPA)
《天皇皇后両陛下を出迎え》藤原紀香、万博での白ワイドパンツ&着物スタイルで見せた「梨園の妻」としての凜とした姿 
NEWSポストセブン
“極度の肥満”であるマイケル・タンジ死刑囚のが執行された(米フロリダ州矯正局HPより)
《肥満を理由に死刑執行停止を要求》「骨付き豚肉、ベーコン、アイス…」ついに執行されたマイケル・タンジ死刑囚の“最期の晩餐”と“今際のことば”【米国で進む執行】
NEWSポストセブン
何が彼女を変えてしまったのか(Getty Images)
【広末涼子の歯車を狂わせた“芸能界の欲”】心身ともに疲弊した早大進学騒動、本来の自分ではなかった優等生イメージ、26年連れ添った事務所との別れ…広末ひとりの問題だったのか
週刊ポスト
2023年1月に放送スタートした「ぽかぽか」(オフィシャルサイトより)
フジテレビ『ぽかぽか』人気アイドルの大阪万博ライブが「開催中止」 番組で毎日特集していたのに…“まさか”の事態に現場はショック
NEWSポストセブン
豊昇龍(撮影/JMPA)
師匠・立浪親方が語る横綱・豊昇龍「タトゥー男とどんちゃん騒ぎ」報道の真相 「相手が反社でないことは確認済み」「親しい後援者との二次会で感謝の気持ち示したのだろう」
NEWSポストセブン
「日本国際賞」の授賞式に出席された天皇皇后両陛下 (2025年4月、撮影/JMPA)
《精力的なご公務が続く》皇后雅子さまが見せられた晴れやかな笑顔 お気に入りカラーのブルーのドレスで華やかに
NEWSポストセブン
真美子さんと大谷(AP/アフロ、日刊スポーツ/アフロ)
《大谷翔平が見せる妻への気遣い》妊娠中の真美子さんが「ロングスカート」「ゆったりパンツ」を封印して取り入れた“新ファッション”
NEWSポストセブン